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【ポッカGTレースレポート】来場した27000人が手に汗握った攻防戦を振り返る

21日(日)、大盛況のうちに2011ポッカGTサマースペシャルは幕を閉じた。今年で40回目の記念大会となったレースは、伝統だった「1000km耐久レース」から、昨今の経済事情、震災の影響による節電対策の関係で、500kmレースとしての開催となった。

以前から“ポッカ1000km”の愛称で、多くのモータースポーツファンに支えられてきた真夏の祭典。そういったファンからすると、今年は500kmでの開催と聞いたときは、おそらく“寂しさ”のようなものを感じたと思う。

しかし、いざレースが始まってみると、ここ数年では最も白熱したレースになり、間違いなく今年のSUPER GTシリーズのハイライトとなると共に、これから先も、多くのファンに語り継がれていくレースとなった。
今回は、大激戦となったGT500クラスを中心に、2011ポッカGT決勝を振り返っていこうと思う。

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2011ポッカGTは、大雨の中でスタートを迎えた『撮影:SHIGE


【最大のライバルは“鈴鹿の天気”2011ポッカGTを演出した“鈴鹿の雨”】
毎年、真夏の日差しがサーキットに照りつけ、ドライバーやチーム、マシンを苦しめる真夏の暑さの中で開催されるポッカGT。しかし、今年は予選日から大雨に見舞われる、悪天候の中でのレースとなり、雨の予選では定評のあるNo.46SRoad MOLA GT-R(柳田真孝/ロニ-・クインタレッリ)がGT500のPP、No.43ARTA Galaiya(高木真一/松浦孝亮)がGT300のPPを獲得した。

そして、日曜日の15時10分から始まった決勝レース。500kmのため87周勝負のレースとなった。天気は前日に引き続き雨。しかし、刻々と雨の量、そして路面の水の量が変化する難しいレース。各マシンに義務付けられた2回のピット作業で、どのタイヤを選択するか?文字通り「タイヤ選択」が勝敗の分かれ目となった。


【GT500クラス:浅溝ウエットタイヤvsスリックタイヤ。最終コーナーまで続いた大バトル】
GT500クラスは、雨に強いミシュランタイヤを履くMOLA GT-Rがレース序盤をリードするも、刻々と変わる路面状況に翻弄され、順位を落としていってしまう。その中でトップに立ったのがNo.23MOTUL AUTECH GT-R(本山哲/ブノワ・トレルイエ)。スタート時に選択した少雨用の浅溝ウエットタイヤが見事的中し、レースを支配していく。

★★ここがポイント(1)「タイヤ交換のタイミングと、雨の量の違い」★★
スタートからタイヤ選択が的中し、一気に優勝候補の筆頭になったMOTUL AUTECH GT-Rだが、カレラにとって、1回目のピット作業で落とし穴がハマるきっかけとなってしまった。各マシンの戦略上、ピットインのタイミングが他より異なったMOTUL AUTECH GT-R。実は彼らがピット作業を行った瞬間だけ、雨の量が多く、その状況を見て「(豪雨用)深溝タイヤ)」を選択し、レース中盤に臨む事を決める。
しかし、タイヤ交換をしてコースに復帰してから、勢いを増していた雨が止み、コース上は徐々に乾き始め、深溝タイヤには不向きなコンディションに変化していく。これにより、浅溝タイヤを選択していたNo.1ウイダーHSV-010(小暮卓史/ロイック・デュバル)に追い詰められ、42周目にトップを奪われてしまう。ちょうど同じタイミングでNo.100RAYBRIG HSV-010の山本尚貴が200Rで大クラッシュ。2位に後退した瞬間にセーフティーカーが導入され、さらに後続との距離がゼロになってしまい、さらに不利な展開になっていってしまった。

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決勝レース直前に使用する雨用タイヤを交換するMOTUL AUTECH GT-R

★★ここがポイント(2)「それぞれの“勝負タイヤ”で挑んだ最終スティント”」★★
MOTUL AUTECH GT-Rの後退により、レースの主導権を握ったのはNo.1ウイダーHSV-010(小暮卓史/ロイック・デュバル)だった。セーフティーカーが解除されレースが再開されると、ステアリングを握る小暮は、一気に逃げ始める。途中、GT300のマシンと接触し2位に落ちるも、再びトップを奪い返す。

「GT300のマシンと接触が起きた時は、上手く状況を理解できず、とにかく怒りながら走っていた。(2回目のピットで)ロイック選手にステアリングを渡すまでには、少しでも2以下とのギャップを稼いでおきたいという気持ちでプッシュした。」という小暮は、一時はライバル達より1秒以上速いペースで周回を重ね、レース終盤を担当するロイック・デュバルにマシンを託す。
この時点で、路面も乾き始めていた鈴鹿サーキット。数台のマシンはスリックタイヤも選択していたが、まだ路面が滑りやすいポイントもあり、1位という立場上、あまりリスクの高いタイヤ選択も出来なかったウイダーHSV。さらに「今回用意したブリヂストンのスリックタイヤは高温向きの仕様で、雨上がりの低温路面ではグリップしない可能性が高く、チームの判断で浅溝ウエットタイヤを選択した。」とデュバル。また終盤に雨が降ってくる可能性も見越して、保守的な戦略で夕暮れのコースへ復帰するが、これが「2011ポッカGT最大のドラマ」のはじまりだった。

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中盤、怒涛のトップ快走を見せたウイダーHSV-010『撮影:SHIGE

デュバルたちの予想を裏切り、雨は完全に上がりスリックタイヤを履くマシンが、どんどんペースを上げていく。その中でも、驚異的な速さを見せたのが、現在ランキング首位のNo.46SRoad MOLA GT-Rを駆るロニー・クインタレッリだ。1周当たり、最大で5秒ほど速いペースでウイダーHSVを追撃。逃げるデュバルも、雨用のタイヤを限界まで使い切り、必死に逃げる。

タイヤ選択の差が生んだ、終盤のレース展開となったが、残り10周を切った頃には、必死に逃げるデュバルと、必死で追いかけるクインタレッリの、「ドライバーvsドライバーのガチンコ勝負」になり、大雨でも観戦エリアに留まって、レースを見守り続けた27000人のファンを釘付けにする大バトルとなった。

最終的に、残りわずかのところで再び雨が降り出し、MOLA GT-Rがペースダウン。ギリギリの勝負を逃げ切ったウイダーHSVに軍配が上がった。

間違いなく、今季のSUPER GTのハイライトの一つとなったポッカGT500kmを終えた小暮とデュバルはレース後の記者会見で「本当に嬉しい!今回は集中力が途切れると、すぐにダメになるレースで、凄く長く感じた。(デュバル)」「今回は内容が濃いレースだっただけに、久々に感動した。(小暮)」とコメント。本人たちにとっても、ベストレースになった事だろう。


【GT300クラス:路面状況をしっかり把握して臨んだタイヤ交換】
GT500クラス同様に、GT300クラスも「タイヤ選択」が大きな鍵となったポッカGT。予選PPのNo.43ARTA Galaiya(高木真一/松浦孝亮)も、雨には定評のあるチーム・マシンではあったが、レース序盤から主導権を握ったのはNO.62R&D SPORT LEGACY B4(山野哲也/佐々木孝太)だった。
8周目にARTAガライヤからトップを奪い、刻々と変わるコンディションにも上手く対応したレガシィのマシン。
レースの序盤と終盤を担当した佐々木孝太も「予選日から、どんなコンディションでもレガシィは安定して速かった」と、今回のマシンの仕上がり具合を振り返っていた。

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安定した速さを見せたR&Dレガシィ『撮影:SHIGE

しかし、マシンがどんなに良くても、タイヤ選択でミスしてしまうと、全てが台無しになってしまう。特にGT300では、大博打を踏んでスリックタイヤにするものの、雨が強くなり、また雨用に交換し直すなど、天候変化で右往左往しているチームが多かった。その中で優勝争いをしていて、絶対にミスが許されない立場にあったR&Dレガシィだったが、レース中のタイヤ選択について、ベテランドライバーの山野哲也は、こう振り返った。

「タイヤ交換のタイミングでは、常にピットと連絡を取り合って、“今路面状況がどうなっているのか?”を確実に把握してからタイヤを選択してピットに入った。だから、2回目の交換時もスリックタイヤに交換というのは少々賭けだったが、ピット前の路面状況を把握して“これならスリックでも大丈夫”と確信をもってから交換したのが、最終的に勝利につながった(山野)」

レース後半にはNo.33HANKOOK PORSCHE(影山正美/藤井誠暢)に、一時トップを奪われるものの、的確なタイヤ選択で、再びトップを奪い返し、最終的に2位以下に大差をつけて優勝を勝ち取った。

とは言っても、刻々と変わる路面コンディションを的確に把握しながらライバルと戦うという、厳しいレースを振り返った佐々木は「昨年の700kmよりキツかった。」とコメントした。

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レース後、メインストレートが開放。表彰式を見ようとコースに下りてくるファン

こうして、激闘の500kmレースが終了。今年のポッカGTは「真夏の鈴鹿決戦」というほど、夏らしいコンディションでのレースにはならなかったが、夏の暑さに負けないほどの、チーム同士の駆け引き、ドライバー同士のバトルが展開されたポッカGTだった。

そして、そのドライバーやチーム関係者の「レースへの、勝負への思い」は、確実にファンに伝わり、大きな感動を生んだに違いない。
この日、鈴鹿サーキットに来場した27000人のファンにとって、「2011年の夏の思い出」のひとつになってくれれば幸いだ。

『記事:吉田 知弘』