【F1】第18戦アブダビGP:レースレポート

『Photo:Pirelli』
『Photo:Pirelli』

2012年のF1世界選手権も残り3戦、チャンピオン争いも大詰めを迎え中も集める中、今シーズンのターニングポイントとなる第18戦アブダビGPが4日、ヤス・マリーナ・サーキットで行われた。

予選・決勝ともに夕方にスタートしチェッカーが振られる頃には夜になっているという、シリーズ唯一の「トワイライトレース」として開催。コース幅も広くオーバーテイクポイントも幾つか存在するなど見どころの多いサーキットとなっている。

予選ではルイス・ハミルトン(マクラーレン)が今季6度目のポールポジションを獲得。チャンピオンで逃げるセバスチャン・ベッテル(レッドブル)は3位。それを13ポイント差で追いかけるフェルナンド・アロンソ(フェラーリ)は7位と低迷した。しかしベッテルのマシンから検査で必要な燃料サンプルを一定量確保できなかったため、予選失格。3番手スタートが一転し最後尾からのレースを余儀なくされてしまう。また日本の小林可夢偉(ザウバー)はマシンのセッティングが上手く決まらず予選16位。しかしベッテルの失格により決勝は15番手からのスタートとなった。

迎えた4日(日)の決勝。スタートではハミルトンが順当にホールショットを決めるも2番手マーク・ウェバー(レッドブル)が出遅れ、その背後4番グリッドのキミ・ライコネン(ロータス)が2位に浮上。アロンソも4位に浮上しベッテルが追いついて来る前にトップに立ちたいところ。後方では可夢偉が好スタートを決め15位から8位にジャンプアップ。ベッテルも20位に浮上にさらに上位を目指した。

序盤から一気に後続を引き離し得意の「先行逃げ切り」で今季3勝目を狙ったハミルトンだったがF1復帰後初の勝利を目指すライコネンが独走を許さず、スタートからハイレベルなトップ争いが展開されていった。

9周目、後方でペースダウンしたナレイン・カーティケヤン(HRT)にニコ・ロズベルグ(メルセデスAMG)が追突。コース上に大量の破片が散乱した影響でセーフティカーが出動。これがレース展開を左右するきっかけとなった。

【ベッテル、不運なアクシデントで再び最後尾へ】
セーフティカー導入時点で最後尾の24位から12位まで追い上げてきたベッテル。ポイント圏内の10位も目前な事に加え、セーフティカーで前との差が詰まり、さらなる順位アップのチャンスだった。しかし裏ストレートで急減速した11位のダニエル・リチャルド(トロ・ロッソ)を避けようとした際にコース脇のDRS稼働ゾーンを示す看板に接触。フロントウイングを破損し、緊急ピットインを余儀なくされてしまう。レース序盤ということもあり、まだどのドライバーもタイヤ交換を行なっていない中、ベッテルのみが13周目にピットイン。スタート時に今回のハード側にあたるミディアムタイヤを選択。レース後半で有利になる戦略も水の泡になってしまい、再び最後尾に転落してしまった。

【ハミルトンがまさかのストップでライコネンがトップ浮上】
コース上の作業も終わり15周目にレースが再開。再び1位ハミルトンが逃げ、2位ライコネンが追いかける展開になっていく。再スタート直後からベストタイムを連発するハミルトン。わずか4周で3秒以上のリードを築いた。これで勝負あったかと思われた20周目。突然ハミルトンのマシンがスローダウン。マシントラブルによりまさかのリタイヤを余儀なくされてしまう。これでライコネンが1位に繰り上がり、直後にアロンソが前を走るパストール・マルドナード(ウィリアムズ)を抜き2位に浮上。ライコネンが主導権を握った状態で中盤戦を迎えていく。

【最終ラップまで続いた“ベッテルの驚異的な追い上げ”】
予選失格に加え決勝でのアクシデントで2度目の最後尾転落を味わったベッテル、まさに“不運な週末”となり、ポイント獲得は不可能かと思われたが、2011年王者は最終ラップまで諦めず再度アクセルを踏み込み、前を目指した。

『Photo:Pirelli』

15周目のピットインでソフトタイヤに履き替え1分47秒台のペースで周回。37周目に再度ピットインし新しいソフトタイヤに交換。これで4位に後退し3位ジェンソン・バトン(マクラーレン)との差は約15秒。残り16周では逆転も厳しいかと思われたが、この直後に後続で多重クラッシュが発生。この影響で2度目のセーフティカーが導入され、15秒あった差は一気に1秒以下になったバトンとベッテル。このチャンスを逃さなかったベッテルはレース再開後の残り3周で逆転に成功。最後尾スタート、途中のアクシデントで再び最後尾に落ちるものの怒涛の追い上げで3位フィニッシュ。貴重な15ポイントを勝ち取った。

【ライコネン、3年ぶりにF1で優勝を果たす】
20周目にトップに立って以降、危なげない走りでトップを死守したライコネン。後半は背後に迫ってきたアロンソに付け入る隙を与えず、そのままトップでチェッカーを受け、2009年ベルギーGP以来となる約3年ぶりの優勝を飾った。

パルクフェルメに戻りガッツポーズで喜びを表現したライコネン。普段はクールに振る舞うことが多いが、F1復帰初年度な上にレッドブル、フェラーリ、マクラーレンと比べると戦闘力でやや劣っているロータスで勝利を勝ち取れたことが嬉しかったようだ。

『Photo:Pirelli』
『Photo:Pirelli』

表彰式でもトロフィーを掲げてガッツポーズを見せたライコネン。本来はシャンパンファイトの前にボトル一気飲みをする“ライコネンらしい姿”を見たかったのだが、今回は宗教の関係上シャンパンではなくノンアルコールのローズウォーター。ポディウムでもシャンパン一気飲みはお預けとなったが、彼にとって大きなステップとなった1日だった。

キミ・ライコネン(ロータス)
「今日はチームにとっても僕自身にとってもハッピーな一日だった。ただ今季はまだレースが残っている。今回と同じようにベストを尽くしていきたい。」

【小林可夢偉、波乱のレースで生き残り6位入賞】
15番手スタートからスタートで8位に浮上した可夢偉。その後、僚友のセルジオ・ペレスに抜かれるものの最初のスティントで上位陣と同じソフトタイヤを選択。後続のミハエル・シューマッハ(メルセデスAMG)をきっちり抑えこむ走りをみせた。レース中盤の25周目にピットインしミディアムタイヤに交換。ここから可夢偉の“我慢の後半スティント”がはじまっていく。実は可夢偉のマシンはクラッチとKERSのトラブルを抱えており、ペースがなかなか上がらない。前のマシンを追い抜いていけるほど攻められない状況にありながらも1分47秒台のペースを維持し粘り強く走行を続けた。
するとレース終盤に思わぬチャンスが舞い込む。可夢偉の前を走るポール・ディ・レスタ(フォース・インディア)、セルジオ・ペレス(ザウバー)、マーク・ウェバー(レッドブル)、ロメ・グロジャン(ロータス)が絡む多重クラッシュが発生。2度目のセーフティカーが導入され、可夢偉は一気にポジションを上げ6位に浮上。レース再開後も危なげない走りで日本GP以来となる3戦ぶりに入賞を飾った。

『Photo:SauberF1Team』
『Photo:SauberF1Team』

レース後、可夢偉は「メルセデスAMGまであと12ポイント。残り2戦でなんとか巻き返したいです」とコメント。目標は表彰台に上がった日本GP後と同じく、3年間一緒に戦ってきたザウバーチームをランキング5位にしたいという思いは変わっていない。来年につなげるためにも可夢偉のさらなる挑戦が続く。

【ベッテルvsアロンソの王者争いは10ポイント差でアメリカGPへ】
アブダビGPが終了し、2012年のF1も残り2レース。注目のチャンピオン争いは1位ベッテル(255ポイント)、2位アロンソ(245ポイント)。ベッテルの最後尾スタートなどで逆転のチャンスがあったアロンソだったが、わずか3ポイントしか縮めることが出来ず、次戦の結果次第ではベッテルの3年連続チャンピオンが決定する。

その次回第19戦アメリカGPは初開催となるオースティン。左回りで鈴鹿のS字区間も思い起こさせるような連続コーナーのレイアウトが特徴。日程は11月16〜18日。2012年のドライバーズチャンピオンをかけた注目の大一番が始まる。

『記事:吉田 知弘』

吉田 知弘(Tomohiro Yoshita)

投稿者プロフィール

フリーのモータースポーツジャーナリスト。主にF1やSUPER GT、スーパーフォーミュラの記事執筆を行います。観戦塾での記事執筆は2010年から。翌年から各サーキットでレース取材を重ねています。今年はSUPER GTとスーパーフォーミュラをメインに国内主要レースをほぼ全戦取材しています。
初めてサーキット観戦される初心者向けの情報コーナー「ビギナー観戦塾」も担当。

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