3月に開幕した2012年のF1世界選手権。過去最多の年間20戦というタイトなスケジュールの中、毎回白熱したレースが繰り広げられた。そんな2012年シーズンも、今週末もブラジルGPで最終戦を迎える。それと同時に今季のワールドチャンピオンも決定する。今回はセバスチャン・ベッテルとフェルナンド・アロンソの一騎打ちとなる最終戦ブラジルGPのチャンピオン争いの展望をご紹介していこうと思う。
今年はキミ・ライコネン(ロータス)も復帰を果たし、6人のチャンピオン経験者がエントリー。開幕前の予想を大きく上回り、19戦を終えて8人のウィナーが誕生した。そして、一年間を通して最も多くポイントを獲得したドライバーに与えられるF1ドライバーズチャンピオン。前回アメリカGPを終えて、その候補はセバスチャン・ベッテル(レッドブル)とフェルナンド・アロンソ(フェラーリ)の2人に絞られた。
【どん底の開幕戦からコツコツとポイントを集めたアロンソ、最終戦では奇跡の逆転なるか?】
今年でフェラーリに移籍して3年目を迎えるアロンソ。今年こそ王座奪還を目指して挑んだ開幕戦だったが、今季のフェラーリのマシン「F2012」はシーズン序盤からスピード不足に悩まされており、予選では12位といきなりQ2ノックアウトという屈辱を味わってしまった。しかし決勝では粘り強い走りで順位を上げて5位フィニッシュ。続く第2戦マレーシアGPでも雨を味方につけて8番手スタートからトップに浮上すると、終盤に追い上げてきたセルジオ・ペレス(ザウバー)を振りきって今季初優勝。その後も全戦でポイントを獲得し、2位以下に40ポイント近いリードを築いて前半戦を折り返した。このまま自身3度目のチャンピオン決定も時間の問題では?と思われた後半戦。ベルギーGPでスタート直後の多重クラッシュに巻き込まれリタイヤ。さらに日本GPでもスタート直後に他車と接触しスピン。0周でリタイヤしてしまうなど不運なレースが相次いだ。その間にベッテルが息を吹き返し、シンガポールGP、日本GPと連勝。これまであったポイント差を一気に取り返し、韓国GPでついに逆転を許してしまう。それでも名手アロンソはタイトル獲得に向けて全力で各レースに向かい、苦しいレースでも表彰台を獲得。その結果、13ポイント差で最終戦での逆転チャンピオンの可能性を残すことに成功した。
終盤戦に入ってからはレッドブル陣営の勢いに押されっぱなしのフェラーリチーム。しかし2度のチャンピオンを経験し、勝ち方を知っているアロンソは、王座獲得に必要な「安定感」を発揮。どんなに予選順位が悪くても決勝で巻き返し、必ず表彰台圏内でレースを終えている。最終戦では3位以内でのゴールが必須。自力での逆転が不可能という厳しい状況にあるが、シーズンを通してみせてきた「安定感」が最後の最後で役に立つことも十分に有り得る。
“人事を尽くして天命を待つ”アロンソにとっては我慢の最終戦が始まる。
【後半の快進撃で44ポイント差を一気に逆転!ベッテル、最大のライバルを倒し3連覇なるか?】
昨年、圧倒的な強さで2度目のチャンピオンを獲得したベッテル。今年もライバルが多数存在する中、結局は彼がチャンピオンに一番近いドライバーだろうという予想が大半を占めていた。しかし、いざ開幕してみると今まで見たこともないほどの苦戦を強いられる。第2戦マレーシアGPで11位0ポイントと低迷すると第3戦中国GPでは予選Q2敗退。第4戦バーレーンGPで優勝を飾るが、その後も王者らしからぬ苦戦したレースが続いた。一方、その間に着実にポイントを重ね、ランキング首位に踊り出たアロンソ。気がつくと、その差は第10戦ドイツGP終了時点で44ポイント差に広がっていた。
「さすがに3連覇は無理か」ファンや関係者も少しずつ諦め始めた後半戦。ここから我々は、王者ベッテルとレッドブルという最強チームの底力を見ることになった。第14戦シンガポールGPで今季2勝目を挙げると、翌第15戦日本GPでは本来のレッドブルの速さが復活。予選でフロントローを独占し、決勝もベッテルが独走で優勝。その後も韓国、インドとアジアラウンド4連勝を達成。ポイントランキングでアロンソを見事逆転。アメリカGP終了時点で13ポイントのリードを築いている。
前半は思うような結果が残せず苦しんだベッテルだったが、後半になって再び最速マシンをレッドブルが用意。この勢いで第14戦シンガポールGPから4連勝をマーク。アロンソの不運なアクシデントにも助けられ第16戦韓国GPでついに逆転。ランキング首位に踊り出た。アロンソとは対照的に後半戦で圧倒的な速さを手に入れたものの、マシントラブルでのリタイヤやレース中のペースダウンが見られるレッドブルのマシン。前回アメリカGPでも同僚のマーク・ウェバーがオルタネーターのトラブルでリタイヤを喫している他、ベッテル自身も今季はマシントラブルで2度のリタイヤを経験。この“トラブル”が最終戦の一番重要な場面で発生すれば、チャンピオン争いに大きく影響することは確かだ。
ミハエル・シューマッハ以来となる3年連続ワールドチャンピオンに向け、ベッテルの長いレースウィークエンドが、今始まろうとしている。
【13ポイントのリードは大きいか?小さいか?】
第19戦アメリカGPを終えて、1位セバスチャン・ベッテル(レッドブル)273ポイント、2位フェルナンド・アロンソ(フェラーリ)260ポイント。その差は13ポイント。この差を“大きい”と感じるか“小さい”と感じるか、人によって様々かもしれないが、これまでの流れや両陣営のマシン状況などを考えると、「色んな可能性を秘めている13ポイント」と言えるかもしれない。
<チャンピオン決定条件(観戦塾調べ)>
セバスチャン・ベッテル(レッドブル)273ポイント
・4位以内:無条件で決定
・5〜7位:アロンソが2位以下であればチャンピオン決定
・8位:アロンソが3位以下であればチャンピオン決定
・9位以下(orリタイヤ):アロンソが4位以下であればチャンピオン決定
フェルナンド・アロンソ(フェラーリ)260ポイント
※3位以内が必須条件
・優勝:ベッテルが5位以下であればチャンピオン決定
・2位:ベッテルが8位以下であればチャンピオン決定
・3位:ベッテルが9位以下であればチャンピオン決定
こうして見るとベッテルが圧倒的に有利なように見えるが、最終戦は何が起こるか分からない。というのも、今季のレッドブルマシンはトラブルが比較的多い。自身も2度リタイヤを喫しているだけでなく、僚友のウェバーも前回アメリカGPでマシントラブルでリタイヤ。一方、“速さ”という点では劣勢になり始めているアロンソだが、決勝では粘り強い走りを見せ、後半戦(第11戦ベルギーGP)以降、他車とのアクシデントでリタイヤしたベルギーGP、日本GPを除いて全戦で表彰台に登っている。
さらに決勝日の25日(日)。現地ではまとまった雨が降るという天気予報も出ているため、波乱のレースになることも予想される。もしかすると、ベッテルが予期せぬトラブルやアクシデントでリタイヤし、アロンソが必須条件となる3位に食い込んでくる可能性も、この時点では十分にあり得るのだ。
いよいよ現地時間の23日(金)から開幕する最終戦ブラジルGP。王座をかけた争いは、現在のF1を代表するベッテルとアロンソ。この2人に絞られた。1年間の努力と苦労が報われるのか?それとも、ここまでの頑張りがたった一つのミスやアクシデント、トラブルによって無になってしまうのか?
大混戦だった今シーズンを締めくくる大一番が、いよいよ幕を開ける。
『Photo:Pirelli』
『記事:吉田 知弘』
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