【F1】2012シーズン総集編(3):今シーズンを左右した日本GPでの“25対0”

『Photo:Pirelli』

 先日からお送りしている2012年のF1総集編。第3弾は大興奮だった第15戦日本GPを中心にチャンピオン争いが決まったシーズン終盤戦を振り返っていく。ベッテルとアロンソに絞り込まれた今季のタイトル争い。果たして、勝敗を左右したターニングポイントはどこにあったのか?

総集編(1):群雄割拠のシーズン前半
総集編(2):混戦から抜けだしたアロンソとベッテル

★★今季一番のターニングポイント★★
【第15戦日本GP:今シーズンを左右した“25対0”】
 今季のチャンピオン争いで明暗を分けた一番のターニングポイント。それは鈴鹿での日本GPだっただろう。ベルギーGPでのリタイヤ以降、イタリア、シンガポールと3位表彰台を獲得。安定した結果で194ポイントまで伸ばしたフェルナンド・アロンソ(フェラーリ)。しかし後半戦になって調子を取り戻し始めたセバスチャン・ベッテル(レッドブル)も追い上げを開始。シンガポールGPで今季2勝目を飾り165ポイントを獲得しランキング2位に浮上。アロンソの29ポイント後方まで近づいた。そして舞台は、過去何人ものワールドチャンピオンが誕生した日本が世界に誇れるコース「鈴鹿サーキット」にやってきた。

『Photo:Pirelli』 予選ではレッドブル陣営が今季はなかなか見られなかった“圧倒的な速さ”を披露。ベッテルがポールポジションを獲得しウェバーが2位。今季初のフロントロー独占を果たした。一方のアロンソは今ひとつ噛み合わず7位。ライバルに対し明らかな遅れをとってしまった。現在の29ポイントという差は1レースで逆転される差ではないものの、前戦からレッドブル陣営が息を吹き返し、差を詰め始めている。少しずつ流れがベッテルに傾きつつある鈴鹿の土曜日だった。

 そして迎えた日曜日の決勝。そのスタートで明暗が分かれた。ベッテルは順当に好スタートを決めトップを死守。バトンのグリッド降格で6番手スタートとなったアロンソだったが、1コーナーでキミ・ライコネン(ロータス)のフロントウイングに左リアタイヤが接触しパンク。そのままスピンを喫し、なんと今季2度目のリタイヤを経験してしまう。一方のベッテルは終始ベストタイムを連発し独走。久々に「速すぎて国際映像に映らないベッテル」のレース運びで今季3勝目をマークした。

 追い上げてきているベッテルをシーズン終盤まで振り切るためには、優勝することができなくても「最低でもポイント獲得」が必要だったアロンソ。それがなんと0周リタイヤで、一番恐れていた「25対0」という結果に。これで一気にベッテルは190ポイントまで伸ばし、決勝前には29ポイントあった差を4ポイントにまで追い詰めた。

『Photo:Pirelli』 この“25対0”。長い20戦のシーズン中には1度や2度あってもおかしくはないが、両者の立場から見ると凄く大きな意味を持っていた。ベッテルとレッドブル陣営にとってはマシンの上り調子になり、チームも勢いがついてきた中での25対0。一方、アロンソとフェラーリ陣営にとっては、ライバルに追い詰められ始めた中で1ポイントも落とすことが出来ないレースでの0対25。こうしてシーズン終了後に振り返ると、今年の日本GPは数字以上に大きな意味を持ったレースだった。
『Photo:Pirelli』

【ファンと一致団結して掴み取った可夢偉3位表彰台】
 今年の日本GP。ベッテルとアロンソのチャンピオン争いにも注目が集まったが、主役はやはり小林可夢偉(ザウバー)だった。

KANSENZYUKU 僚友セルジオ・ペレスは3回の表彰台を経験。一方の可夢偉は第10戦ドイツGPで4位入賞を飾ったものの、不運なアクシデントやトラブルに見舞われ思ったような結果が残せていなかった。彼の実力を知っているがゆえに、それに似合う結果が見られず「可夢偉は今年も期待ハズレだったのか?」という声も少なからずあったが、「きっと鈴鹿では良い結果を出してくれる!」と信じた多くのファンがレース前の木曜日から現地に駆けつけ声援を送った。

 予選ではキミ・ライコネン(ロータス)のスピンが影響で不完全燃焼のアタックながら4位。3位のジェンソン・バトン(マクラーレン)がギアボックス交換による5グリッド降格ペナルティで、3番手スタートを手に入れた。不安視されていたスタートもきっちり決めて2位に浮上。1回目のタイヤ交換で10番手スタートのフェリペ・マッサ(フェラーリ)に先行を許すも、序盤からポジション争いをしてきたジェンソン・バトン(マクラーレン)を押さえこんで3位を死守。ここから初の表彰台をかけ、2009年王者バトンとのマッチレースが繰り広げられた。

 いち早く31周目に2度目のタイヤ交換を敢行した可夢偉。今まで作業に手間取っていたザウバーのチームスタッフだったが、素早い作業で可夢偉を送り出し、彼の力走に応える。このまま逃げ切ろうとしたが、バトンも少しずつ追い上げ4.5秒あった差が残り10周で1.8秒後方まで迫られてしまう。

KANSENZYUKU 「このままの勢いだとバトンに抜かれてしまう。」そんなピンチを救ったのが、鈴鹿に詰め掛けた10万3千人のファンの声援だった。2コーナーとヘアピンに設けられた可夢偉応援席を中心に毎周にわたって旗が振られ、熱い声援が送られた。このファンの声援が可夢偉にとっては大きな支えになったに違いない。消耗していくタイヤにムチを入れ再びプッシュし52周目に1分36秒679の自己ベストタイムを記録。最終ラップまで攻め続けてきたバトンを振り切って悲願の3位チェッカーを受けた。

KANSENZYUKU 表彰台に可夢偉が登場するのを待ち切れないグランドスタンドからは「可夢偉コール」が沸き起こり、サーキット全体が可夢偉一色に染まった。今回の3位表彰台は、もちろん可夢偉自身の実力は去ることながら、ザウバーマシンの性能の高さと、それを支えた完璧なチームワークがあったのも事実。それでも今季はなかなか結果が残せなかった。しかし今回は「母国ファンの大きな声援」が可夢偉とザウバーチームの力になり、実力が拮抗した厳しいレースの中で、自然と追い風になってくれたことは確かだろう。間違いなく今年の日本GPの主役となった可夢偉。それを影で支え、初表彰台という夢を実現させたのは、F1に対して今も熱い情熱を持ち続けている日本のF1ファン、可夢偉ファンだったのかもしれない。
『Photo:KANSENZYUKU』

★★今季のターニングポイント(3)★★
【最大のピンチを自力で切り抜けたベッテルの底力】
 日本GPで一気にポイント差を縮めたベッテルは続く韓国GPも連勝し、ついにランキング首位に返り咲いた。これで追いかける立場となったアロンソ。速さではレッドブルに敵わないが、それでも確実に表彰台の一角を死守し、できる限りポイント差が開かないようなレースをみせ、2人の一進一退の攻防戦が続いた。そんな中、もう一つのターニングポイントとなったアブダビGP。予選後の車検違反によりベッテルのタイムは全て抹消。なんと3番手が一転し最後尾(24番手)からのスタートを余儀なくされる。

『Photo:Pirelli』 決勝で一度は12位まで挽回するが、セーフティカー中の不運なアクシデントに巻き込まれフロントウイングを破損し緊急ピットイン。後半戦で頑張って取り返した首位の座を、再びアロンソに奪われるかもしれないというピンチに陥った。一方、アロンソは6番手から一気に順位を上げ表彰台圏内へ。今までの劣勢を取り戻す千載一遇のチャンスに恵まれた。完全にアロンソ有利な決勝レースになるはずだった。

『Photo:Pirelli』 レース中に2度の最後尾を経験しながらも、集中力が途切れる事がなかったベッテルは諦めずに三度上位を目指す。レース後半に入ったセーフティカーにも助けられポイント圏内まで挽回すると、残り3周でバトンをかわし、最後尾からの怒涛の追い上げで見事3位表彰台を獲得。逆にアロンソは苦戦しトップのライコネンを最後まで攻略することができず2位。結局3ポイントしか縮めることができず、数少ないチャンスを逃した。

 鈴鹿でアロンソが落としたように残り3戦のアブダビでポイントを落としかけたベッテル。しかし非常に困難な状況を切り抜けて、貴重な15ポイントを稼いだのだった。
『Photo:Pirelli』

【最終戦ブラジルGP:3連覇達成へ“最後の試練”に打ち勝ったベッテル】
『Photo:Pirelli』 大混戦のシーズン開幕から、ベッテルとアロンソの一騎打ちになった2012年のチャンピオン争い。決着の舞台は2年ぶりに最終戦ブラジルとなった。前回アメリカGPを終了してベッテルが273ポイント、アロンソが260ポイント。その差は13ポイント。4位以内でのチェッカーであれば無条件でチャンピオンが決まるベッテルに対し、アロンソは3位以内が必須。仮に優勝したとしてもベッテルが5位以下でなければならないという厳しい逆転条件と、明らかにベッテルが有利。しかし、そう簡単にチャンピオンを獲得させてくれるほど、F1世界選手権は甘くない。史上3人目の3連覇を達成するための“最後の試練”が待っていた。

 4番手からスタートしたベッテルは、やや出遅れて8番手のアロンソの先行も許してしまう。さらに狭いターン4で中団の混乱に巻き込まれたベッテルはまさかのスピン。これで最後尾まで順位を落としてしまう。あの悪夢のようなアブダビGPの再現が、この超重要な1戦で現実となってしまった。逆に奇跡の逆転チャンピオンへの条件が揃い、一気に有利になったアロンソ。雨もパラつく難しいコンディションの中、予期せぬアクシデントでリタイヤをしないように慎重に周回を重ねた。

 またしても最後尾から追い上げなければいけないベッテル。コース幅が狭く抜きどころが少ないインテルラゴス。普通に考えれば「挽回は不可能」だ。だが、不可能で片付けた瞬間に3連覇の夢は潰えてしまう。彼が出した答えはもちろん「何が何でも順位を取り戻す」ことだった。その気迫ある走りで、狭いコースにも関わらず次々と前のマシンをオーバーテイク。気がつくと6位まで挽回していた。

『Photo:Pirelli』 この追い上げにより、優勝が必須条件となったアロンソ。なんとか最後までプッシュしようと尽くすがトップを走るバトンに追いつくことはできず2位でチェッカー。最後の最後まで行方が分からなかったチャンピオン争いはベッテルに軍配があがった。「どちらが2012年で最も強く、最も速いドライバーなのか?」を決めるに相応しい決勝レースとなった。
『Photo:Pirelli』

【今年のチャンピオン争いを左右した“ターニングポイント”は?】
 こうしてベッテルに軍配があがった今季のチャンピオン争い。最終戦ブラジルGPのレース展開を見ても分かる通り、まさに“紙一重”で掴んだ栄冠だったかもしれない。しかし、それでも今回の結果が生まれるきっかけとなった「ターニングポイント」というのは、シーズン中のどこかに必ず存在する。

『Photo:Pirelli』 それが今年は正確にどの瞬間と決めるのは難しいが、おそらく日本GPの“25対0”だったのかもしれない。毎レースで安定した結果を残してきたアロンソ。表彰台圏内でフィニッシュした回数はベッテルが10回に対し、アロンソは13回と多かった。それでも“ポイントを失ってはいけないレース”での痛恨のリタイヤが、最終的にベッテルに逆転を許すことになってしまった。

 実は、同様のピンチはベッテルにもあった。アブダビGPとブラジルGPでの“ポイントが必要なレース”で最後尾に後退。しかしベッテルは、このピンチを切り抜けた。これが今年のチャンピオン争いの決着を左右した瞬間だったのかもしれない。
『Photo:Pirelli』

『記事:吉田 知弘』

吉田 知弘(Tomohiro Yoshita)

投稿者プロフィール

フリーのモータースポーツジャーナリスト。主にF1やSUPER GT、スーパーフォーミュラの記事執筆を行います。観戦塾での記事執筆は2010年から。翌年から各サーキットでレース取材を重ねています。今年はSUPER GTとスーパーフォーミュラをメインに国内主要レースをほぼ全戦取材しています。
初めてサーキット観戦される初心者向けの情報コーナー「ビギナー観戦塾」も担当。

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