【ビギナー観戦塾】F1新車発表で注目されている“段差ノーズ”って、そもそも何?

Photo:KANSENZYUKU
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いつもビギナー観戦塾をご覧いただきありがとうございます。

まだまだ冬の寒い時期ですが、3月の開幕に向けてF1界は本格的に動き出しています。先日から、今シーズンの各サーキットに登場する新マシンお披露目が続々と行われており、2013シーズンも「すぐそこ!」まで迫ってきております。

その新車発表の中で、今年は各メディアが大きく取り上げ、ファンや関係者の間でも注目を集めているのが「段差ノーズ」。昨シーズンが多くのチームが採用しており、今年も話題になっています。

しかし・・・
毎日、段差ノーズという言葉を聞きながら「これって何?」と疑問に思っていらっしゃる方も少なくないはず。そこで、今回は段差ノーズについて“そもそも何?というところから、詳しくご紹介していこうと思います。

【段差ノーズとは?】
事の発端は昨シーズン開幕前のお話。F1を統括するFIA(国際自動車連盟)は、2012年からマシンの規定を一部変更。マシンの安全性向上のためにコックピット(運転席)先端から150mm先の部分(つまりフロントノーズの付け根付近/下の図の赤色矢印)の高さを今までより低く制限。しかし、コックピットの高さ制限は変更されなかったため、75mm分の“段差”が出来ることになりました。

段差ノーズ説明(1)[KANSENZYUKU]
[Photo:KANSENZYUKU]

各チームの思惑としては、コックピットの下の部分に出来るだけ多くの空気を取り込むような構造にしてダウンフォース(マシンを地面に抑えこむ力←F1マシンが速く走るために重要な要素)を増やしたいので、コックピットの高さ(基準面から625mm/上の図の黄色矢印)はそのまま。でも新ルールとなったノーズ付け根部分の高さ制限(基準面から550mm/上の図の赤色矢印)は守らなければならない・・・
この結果、昨年誕生してしまったのが、通称「段差ノーズ」なのです。

ただ、2012年の新車発表で登場するマシンのほとんどに、全く見慣れない段差があるものですから、「ダサい!」「カッコ悪い!!」「醜い!!」と世界中のファンや関係者から批判が殺到することになってしまいました。

Photo:KANSENZYUKU Photo:KANSENZYUKU
[このように観客席からでも段差は一目瞭然(Photo:KANSENZYUKU)]

★★段差ノーズはルールに適応するために生み出されたもの★★
もしかすると、ファンの皆さんの間では「段差ノーズはマシンを速く走らせるために開発されたもの」と誤解されてしまっている方もいらっしゃるかもしれませんが、実際はそうではありません。これは各チームが“マシンの性能維持”と“新車両規定への適応”という、避けては通れない2つの要素を上手く組み合わせたもの。適当な表現ではないかもしれませんが「妥協案」なのです。

Photo:KANSENZYUKU
[昨年のマクラーレンはノーズ側の上限に合わせてコックピットの高さを対応したため段差はありませんでした(Photo:KANSENZYUKU)]

【“ダサい!”という批判を受け、今季の対応策】
新車両規定導入から1年。あまりにも「ダサい!」と批判が多かったことを受け、FIAは対策案として「段差ノーズを隠すための“カバー”を取り付けてもかまわない」というルールを追加しました。ただし、このカバーは任意なので、装着しなくても規定違反にはなりません。

これにより今年の新車発表では段差ノーズがなくなっているチームがほとんどですが、厳密にいうと段差ノーズが存在しており、ノーズ本体の上に“カバー(化粧プレート)”を取り付けることで段差を隠しているのです。なので、新車の画像をよく見ると、ノーズ部分に取り外しができるような“繋ぎ目”があるのが分かるかと思います。

【化粧プレートのメリットとデメリット】
「この対策ルールの導入で2013年は段差ノーズがなくなる!」と多くのファンがきっと喜んでいたことでしょう。しかし!日本時間の1月29日早朝に先人を切ってロータスチームが発表した新車「E21」には、なんと昨年とほぼ変わらない形状の段差ノーズが!「一体化粧プレートはどこへ?」「あれ?段差ノーズは隠して良いルールだったのでは?」と戸惑った方々も多かったでしょう。

Photo:Lotus F1 Team
[ロータスE21(Photo:LotusF1Team)]

これについてテクニカルディレクターのジェームス・アリソンは「化粧プレートの使用は許されているが、それにより数グラムだがウェイトが増すことになる。構造上メリットがないであれば、装着しないほうが良いと判断した」とコメント。

“見た目”ではなく“速さ”を求めた結果「化粧プレートは不要」という結論に至ったようです。

Vodafone McLaren Mercedes
[マクラーレン・メルセデスMP4-28(Photo:Vodafone McLaren Mercedes)]

一方、この2日後に発表されたマクラーレンの新車「MP4-28」には化粧プレートが施されているとのこと。これについてチームのテクニカルオブエンジニアリングを務めるティム・ゴスは「確かに重量増加というデメリットはあるが、カバーは非常に軽量に出来ているため、そこまで大きくは影響しないと思っている。今回の変更によりフロントノーズの段差を消すことで得られる空力面でのメリットの方が大きいと判断した。」と説明しました。

Photo:KANSENZYUKU Photo:KANSENZYUKU
[Photo:KANSENZYUKU]

☆化粧プレートのメリット☆
昨年のように“不自然な段差”が出来てしまうと、最高時速300kmで走るF1マシンにとっては大きな空気抵抗となり、コースの周回タイムにも少なからず影響してしまいます(それはカバーによる数グラムの重量増加も同じ)。これが消えるのではあれば、少々重量増加しても構わないという考えのようです。

★化粧プレートのデメリット★
やはりロータスチームのように「重量増加」を嫌うチームは装着を避けるでしょう。ルール上「段差ノーズを隠すため」だけのものなので、それ以外は基本的に意味があまりパーツです。さらに化粧プレートを使用しているチームのマシンを見ると感じるかと思いますが、段差を隠してノーズ表面を滑らかな形状にするために、以前と比べるとノーズ全体が大きく膨らんだ印象を受けます。

ここまでして段差を隠して、マシンの操作性に影響が出るのであれば段差ノーズのままで良い!というのがロータス陣営の考えなのですね。

Photo:Ferrari
[フェラーリの新車F138はカバーを装着(Photo:Ferrari)]

【他にもたくさんあるシーズン中の懸念事項】
この他にも段差ノーズを隠すことによって気になる点が。この化粧プレートはノーズ本体の上に装着する“カバー”なので、基本的には別パーツ。万が一、レース中フロントノーズを破損した際、ピットでの緊急交換が強いられた時に、迅速な対応ができるのか?またカバーだけを破損した際のマシン操作性への影響は?といった部分など、開幕前から気になることがたくさんあり、シーズン中も各チームで色々と試行錯誤が行われたり、議論になっていく可能性もありそうですね。

Photo:KANSENZYUKU
[Photo:KANSENZYUKU]

いかがだったでしょうか?
本当にザックリとした部分ですが「段差ノーズとは何か?」について、今回ご紹介させていただきました。

検索ワード等のデータを見ていても、「F1新車発表」と同じくらい「段差ノーズ」で情報を得ようとしているファンの皆さんが多かったので、今回の記事で少しでも段差ノーズの疑問が解消されれば幸いです!

『記事:吉田 知弘』

吉田 知弘(Tomohiro Yoshita)

投稿者プロフィール

フリーのモータースポーツジャーナリスト。主にF1やSUPER GT、スーパーフォーミュラの記事執筆を行います。観戦塾での記事執筆は2010年から。翌年から各サーキットでレース取材を重ねています。今年はSUPER GTとスーパーフォーミュラをメインに国内主要レースをほぼ全戦取材しています。
初めてサーキット観戦される初心者向けの情報コーナー「ビギナー観戦塾」も担当。

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