【F1】2013第6戦モナコGP〜Point of the Race〜:“念には念を”完璧すぎたニコの78周

©Pirelli
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2013年のF1世界選手権の第6戦モナコGP決勝は、ポールポジションからスタートしたニコ・ロズベルグ(メルセデスAMG)が一度もトップの座を譲らずに78周を走り切り、通算2勝目のトップチェッカーを受けた。自身の初優勝(2012年中国GP)から早1年。その時はピット戦略を巧みに駆使ししてジェンソン・バトン(マクラーレン)と何度も順位を入れ替えながらのトップ争いだったが、今回はスタートからゴールまでの78周全てでトップを死守。まさに完璧過ぎる内容だった。

【レース前半は徹底的なタイヤ管理】
スタートで僚友のルイス・ハミルトンとともに2列目のセバスチャン・ベッテル、マーク・ウェバーの強豪レッドブル陣営からトップの座を守ったロズベルグ。3位ベッテルが2位ハミルトンの攻略に集中している間を利用して、すぐに1.5〜2秒と安全なリードを築いた。もちろん、彼の実力とマシンのコンディションを考えれば、そのままペースを上げて独走ということも可能だったのかもしれないが、あえて今回はそれを行わなかったのだ。10周を過ぎてレース展開が落ち着いてくると、ロズベルグは1分21秒5〜7のペースを維持し、後続とのリードは約1.5〜1.8秒をキープしたまま周回した。徹底的にペースの管理を行うことで余分に攻めることを避け、タイヤの無駄な消耗を食い止めていたのだ。

©Pirelli
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ここモナコは追い抜きポイントがほとんどなく、コース上での順位アップは不可能に近い。そのため前回スペインGPや前々回バーレーンGPのように3〜4回タイヤ交換を行うと順位を失うだけで、何もメリットがない。「ピットインの回数=大きな順位のロス」につながるモンテカルロ市街地コースではルール上で最低限必要な1回のタイヤ交換のみで最後までいけるかが勝敗を分ける鍵になってくる。ここまで決勝ではタイヤの持ちが悪く、苦しいレース展開が続いていたメルセデスAMG勢。“抜けないモナコ”を上手く利用した作戦が見事的中した。

そして20周を過ぎてチームから「そろそろ予定のピットインだ」と告げられると、ロズベルグは一気に本領発揮し一気に1分19秒台のペースへ。これで少しでもアドバンテージを稼ぐ作戦に。これが最終的に功を奏し、ピットイン前の31周目にフェリペ・マッサ(フェラーリ)がクラッシュしセーフティーカーが導入。ここで陣営は慌てることなくピット作業を完了させ、先にタイヤ交換を終えていたベッテル、ウェバーの前でコースに復帰した。

【再スタート直後にみせた“抜群の集中力”】
ロズベルグはトップで復帰できたものの、同一周回にピットインしたハミルトンは、レッドブル2台に逆転され4位。レース後半は現王者ベッテルとの一騎打ちに。それでも、今回のロズベルグは冷静に“やるべきこと”を完璧にこなした。

©Pirelli
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抜けないモナコで残りのピットインもなし。そうなると逆転勝利のためにコースで決着をつけなければいけない。そこでチャンスを見出すとすれば、一番接近できる確率が高い再スタート直後だ。もちろん、これは前を走るロズベルグも十分に理解しており、セーフティーカーがピットインし最終コーナーからメインストレートに向けての加速タイミングを上手くコントロール。ベッテルに全く隙を与えないまま1コーナーをトップで通過していった。それだけではなく、再スタート直後の数周でロズベルグは集中して速いラップタイムを連発。すぐに後方との間隔を1秒以上にすることによってDRSを使用される可能性も潰し、現王者に手も足も出させない完璧な走りを披露。その後、パストール・マルドナード(ウィリアムズ)のクラッシュで赤旗になるなど、後半はセーフティーカー後の再スタートが何度かあったが、全く同じ対応でチェッカーまで走り切った。

“念には念を”という言葉がピッタリと当てはまるレース運びだった。

【偉大な父が30年前に制したモナコGPでの勝利】
1929年から始まった伝統のモナコグランプリ史上初めて、父のケケ・ロズベルグ氏(1983年優勝)とともに親子2代で伝統の1戦を制した。マシンを降りると満面の笑みでガッツポーズを繰り返したロズベルグ。何より自身の初優勝から早1年以上が経過。特にここ数戦はポールポジションからスタートしていながらもペースが悪く後方に沈んでいく悔しいレースが続いていた。それだけに今回の勝利は人一倍嬉しかったに違いない。

©MercedesAMG
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残念ながら、前回スペインGP終了後にメルセデスAMGが極秘でタイヤテストを行なっていたことが明らかになった。その中でのポール・トゥ・ウィンを含む全セッショントップだっただけに、今後しばらく非難が集中する可能性が高いだろう。ロズベルグにとっては、せっかくのモナコGP制覇なのに後味が少々悪くなってしまった。しかしいくら一流のF1ドライバーであっても、これだけ狭いコースをチームの作戦通りに攻めたり守ったりとペースコントロールを繰り返して78周全てでトップを守り切るというのは、決して容易いことではない。ロズベルグの実力と集中力、そして勝利に対する貪欲な気持ちが実らせた勝利だったことは間違いないだろう。

これで25ポイントを稼ぎ、トータル47ポイント。首位ベッテルとの差は60ポイントと大きいが、まだ13レースも残っていることを考えれば、逆転も十分可能だ。今度は父が成し遂げたもう一つの偉業「ワールドチャンピオン」に向けて突き進んでいこうとしている息子ニコ。次回以降の走りにも注目したい。

『記事:吉田 知弘』

吉田 知弘(Tomohiro Yoshita)

投稿者プロフィール

フリーのモータースポーツジャーナリスト。主にF1やSUPER GT、スーパーフォーミュラの記事執筆を行います。観戦塾での記事執筆は2010年から。翌年から各サーキットでレース取材を重ねています。今年はSUPER GTとスーパーフォーミュラをメインに国内主要レースをほぼ全戦取材しています。
初めてサーキット観戦される初心者向けの情報コーナー「ビギナー観戦塾」も担当。

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