【SGT】2013最終戦もてぎ:“25秒差を絶対ひっくり返す”17号車ケーヒンが最後まで魅せた激走

©T.Yoshita/KANSENZYUKU

 ついに決着がついた2013年のSUPER GTチャンピオン争い。史上稀にみる8台のマシンがタイトル獲得権を残していたGT500クラスはランキング首位だったZENT CERUMO SC430(立川祐路/平手晃平)が3位表彰台を獲得。ポイントランキングも逃げ切って2005年以来のシリーズチャンピオンを獲得した。ただ、ツインリンクもてぎに詰めかけていた3万人のファンの多くは、きっと逆転タイトルのために激走を続けたKEIHIN HSV-010(塚越広大/金石年弘)の走りに釘付けになったことだろう。

 話は遡って2日(土)の公式予選。首位の38号車セルモの対抗馬と目されていたランキング2位のPETRONAS TOM’S SC430(中嶋一貴/ジェームス・ロシター)、3位のウイダーモデューロHSV-010(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ)が揃ってQ1で敗退する中、逆にこれまで予選で振るわなかった17号車ケーヒンが躍進。金石がきっちりQ1を通過すると、Q2を担当した塚越が1分41秒490で今季ベストの2位を獲得。自らが優勝し、38号車が3位以下であれば逆転チャンピオンが決められるだけに、その可能性を大きくさせる予選となった。

 続く3日(日)。スタート直後に38号車の平手に抜かれ3位に後退するが、ベテランの金石がしっかりポジションをキープ。ポールスタートのENEOS SUSTINA SC430(大嶋和也/国本雄資)とともに好調なレクサス勢2台にリードされたものの、3位のまま19周目にピットイン。塚越にステアリングを託した。ここから、17号車のチャンピオンに向けての激走が始まる。

 タイヤが温まりきっていないピットアウトの周から全開で攻め、翌周にピットインした38号車がコースに復帰した時には背後にまで接近。相手のタイヤが温まる前に抜き去りたかったところだがチャンスを生かせず、逆にDENSO KOBELCO SC430の石浦宏明に先行を許し4位に後退。これでチャンピオンは38号車で決まりかと思われていたが、17号車は塚越も含めチーム全員が1%も諦めてはいなかった。35周目に石浦を抜き返すと、その勢いで38号車の立川もパスし2位に浮上した。

 この時点で残り13周、トップを快走する6号車の国本との差は25秒。単純計算で1周あたり2秒縮めてもファイナルラップで1秒後方に追いつけるだけ。普通に考えればトップ浮上は不可能なのだが、39周目に1分46秒011を叩きだすと、4周続けて1分46秒台をマーク。これに対し初優勝がかかっていたトップの国本はプレッシャーからかペースが鈍り始め1分48秒での走行に。これで両者の差はあっという間に20秒を切り、残り5周で15秒差まで追い詰めた。しかし、逆転するには時間が足りず、そのままの順位でチェッカー。最後の激走も実らず17号車が悔し涙を流すことになった。

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[写真右:レース後、パルクフェルメ脇で力なく座り込む金石]

塚越広大コメント(Hondaリリースより)
「ピットストップで自分に代わった直後は、懸命にプッシュし、ライバルの直後に迫りましたが、このときはタイミングが合わずにオーバーテイクできませんでした。その後は別のライバルに抜かれてしまいましたが、最終的には攻略できました。レース終盤は、トップを走るライバルに追いつこうとして全力で走りましたが、残念ながら届きませんでした。ただし、今回は精一杯戦い、力を出しきれた満足感があります。今シーズンを戦って自分たちに不足していることもはっきり分かったので、それを克服するとともに、自分自身がもっとチームを引っ張っていけるドライバーになりたいと考えています」

金石年弘(Hondaリリースより)
「僕が担当していたレース前半に、GT300クラス車両がコース上にまいたオイルに乗ってしまい、これでコントロールを失ってポジションを落としてしまいました。このとき、路上のタイヤカスを拾ってしまい、しばらくは本来のペースで走れませんでした。とはいえ、今日のレースでも自分たちのベストは尽くしたので、その点では満足しています。今年は尻上がりに調子を上げていき、シリーズ終盤の3戦で表彰台に上れたこともうれしく思っています。今年のこの経験を来年以降の戦いにつなげていくつもりです」

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[写真左:逆転タイトルに一歩届かず悔しい表情を見せる塚越]

 当たり前のことだが、レースでは必ず「勝者」と「敗者」が生まれる。そういう意味では、今回の勝者が38号車の立川/平手組であり、敗者は17号車の金石/塚越組ということになるのだろう。たが、終盤の3位争いは38号車の3位確保のためにレクサス同士でバトルを控えていた動きがみられ、後味は決してよくないチャンピオン決定となってしまった。それに対し、自分たちで優勝して逆転タイトルを掴みに行こうと25秒差の逆転に挑んだ塚越とKEIHIN REAL RACING。彼ら「敗者」と呼ぶには、本当に惜しいと思わせる走りだったことは、きっと誰もが感じていることだろう。最終的に38号車の2人がチャンピオンカップを掲げることになったが、間違いなくチャンピオン争いにおいては17号車の2人は“ヒーロー”だった気がする。

 まだ最終戦を終えたばかりなのだが、来シーズンの彼らと、新型NSXで登場する17号車の走りが今からの楽しみで仕方がない。

『記事:吉田 知弘』

吉田 知弘(Tomohiro Yoshita)

投稿者プロフィール

フリーのモータースポーツジャーナリスト。主にF1やSUPER GT、スーパーフォーミュラの記事執筆を行います。観戦塾での記事執筆は2010年から。翌年から各サーキットでレース取材を重ねています。今年はSUPER GTとスーパーフォーミュラをメインに国内主要レースをほぼ全戦取材しています。
初めてサーキット観戦される初心者向けの情報コーナー「ビギナー観戦塾」も担当。

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