【コラム】東京モーターショー2013で見た“ホンダF1復帰への気合いと覚悟”

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 今年も東京・お台場にあるビッグサイトで開催され、12月1日に閉幕した第43回東京モーターショー2013。現地へ足を運んだ方々は、各ブースのクルマやバイクを見て回り、楽しいひと時を過ごしたかと思うが、その中でもHondaブースは印象に残っている方も多いのではないだろうか?今回はトヨタ・日産とは異なり西ホールに展示エリアを構え、出展した企業の中でも一番広いスペースを確保。もちろん広さだけではなく、その中身の演出などからも数年ぶりに“攻めるHondaを感じることが出来た。

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 すでに2015年からのF1復帰を表明している他、今年はMotoGPで3冠を達成。国内でもスーパーフォーミュラで4年ぶりにHondaエンジン搭載車がチャンピオンを獲得。さらにSUPER GTでは来季から次世代フラッグシップカーとして注目を集めているNSXコンセプトがGT500に登場するなど、モータースポーツ界での活躍や挑戦が目立っていた。そこで開催された今回のモーターショーで伝えようとしていたものは何だったのか?期間中に取材しまとめたものを少しご紹介しようと思う。

【プレスデーで見たHondaの“攻め続ける姿勢”】
 一般公開に先立ち11月20・21日に行われた報道関係者特別招待日(通称プレスデー)。各メーカーとも報道関係者向けにブースの出展者やコンセプトカーを紹介するプレスカンファレンス。ここから早速Hondaの本気を垣間見ることが出来た。(特に比較するというわけではないが)国内他社でみると、スバルはレガシィ後継モデルとして注目を集めている新車レヴォーグを前面に押し出し、日産は代表車GT-Rのファン拡充を狙うラインナップ。トヨタはCMで話題のTOYOTOWNを再現し、近未来を見据えたコンセプトカーで攻めてきた。特にトヨタ・日産は斬新なモデルを登場させたものの、あくまで「コンセプトモデル」であり、すぐに販売開始につながる話は出てこなかった。

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 それに対しHondaはプレスカンファレンスの場で、Nワゴン、ヴェゼルといった一般乗用モデルを続々と発表。さらにコンセプトカーとして新型軽スポーツ「S660コンセプト」も公開し、2015年から量産化していく予定にあることを明らかにした。またブースには2012年にすでにお披露目が済んでいるNSXコンセプトも登場。こちらも2015年から市場投入が開始される予定となっている。

 このように他メーカーとは明らかに異なる量の新モデル紹介と市販開始に向けての明確な発表を行ったHonda。それも各車両の販売開始時期はF1復帰を予定している2015年に位置づけられていた。2008年末に第3期のF1活動撤退を表明して以降、(MotoGPやWTCCの参戦はあったものの)世界の舞台で大活躍する機会が少なくなってしまっていたが、今回の第4期プロジェクトをきっかけに、再び世界へ“Hondaブランド”を根付かせていこうという姿勢が感じられる発表だった。

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 F1を意識していると感じられたのは、新型車の発表だけではなく、来年を皮切りに大きく変わっていくエンジンやモーターなどから構成される「パワーユニット」に対する取り組みからも伺うことが出来た。新NSXなどに搭載予定のスポーツハイブリッドSH-AWDなどのハイブリッドパワーユニットに加え。1.0〜2.0リッターの新エンジン「VTECターボ」をプレスカンファレンスの場で同時に発表。これらは来年から規定変更になる1.6リッター直噴ターボエンジン+エネルギー回生システムから構成されるパワーユニット規格と、ほとんど似ている。

 プレスカンファレンスに登壇した伊東孝紳社長は、その場で直接明言はしなかったものの、最終的にはF1をはじめとしたモータースポーツに重点的に挑戦をしていくのだというHonda全体のムードが高まっている発表だったように思う。

【多くの来場者に訴えかけた“枠にはまるな。”に込められた本当のメッセージ】
 今までにないくらいの挑戦する姿勢を感じることが出来たプレスデー。これは23日から始まった一般公開日でのブース展開からも伺うことが出来た。他メーカーはクルマやバイク以外にも独自の演出を凝らしているブースが多かった中、Hondaはコーポレートカラーである白にベースにしたデザインで、ブースには数多くのクルマやバイクが所狭しに展示され、おそらく一番と言って良いくらい来場者がクルマ・バイクに触れやすい環境になっていた気がする。

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 そして、西ホールに行った際、多くの人が「枠にはまるな。」という大きく描かれたメッセージと大型画面で何度も上映されたコンセプト映像を見て、思わず足を止めて見入ったと思う。

一般公開日で上映されていたコンセプト映像

©Honda

エピローグ映像

©Honda

 「今までの枠の中で物事を考えても、何も前に進まないし、新しい挑戦もできない。だから今までの枠にとらわれずに新しいことをしよう!」おそらく、普段生活や仕事をしている中でも、同じような場面に遭遇する機会があり、今回のメッセージに共感した人も少なくなかっただろう。もちろん、来場者に訴えかける意味が込められていたのは確かかもしれないが、私はプレスデーからの流れを見ると、自分たち自身に言い聞かせているような気がした。

【最強パッケージが復活する第4期にかかる期待とプレッシャー】
 前述でも触れている通り、Hondaは2015年からF1に復帰する。1964年から始まった第1期で初優勝を飾り、1980年〜90年初頭の第2期ではウィリアムズ、マクラーレンと組んでコンストラクターズチャンピオンを獲得。F1史上でもトップクラスに入るほど輝かしい成績を収めてきた。しかし、自らチームとして参戦することに挑んだ第3期はわずか1勝しかできず、まさに“大敗”という屈辱を味わって2008年末に撤退。挑戦するからには勝たなければならないという強い使命感があるHondaにとっては、今度の第4期は絶対に負けが許されない大勝負となる。さらにタッグを組む相手は第2期で大成功を収めたマクラーレン。今でも“史上最強だった”と多くのF1ファンや関係者に語り継がれている伝説のパッケージ「マクラーレン・ホンダ」が復活するのだ。

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 ところが、そのマクラーレンだが、今シーズンは7年ぶりに未勝利に終わり、コンストラクターズランキングも5位と低迷。名門チームらしからぬシーズンを送ってしまった。それだけに2015年から彼らにパワーユニットを供給するHondaにかかる期待と役割は想像以上に大きい。それだけにメディアが注目し、2015年シーズンを今か今かと待ち続けている人も多い。それは間違いなく彼らにとっては喜ばしいことでありプレッシャーに感じていることでもあるだろう。その中で“Hondaとして出来ること、やらなければいけないことは?”と考えた時の答えが、きっと「枠にはまるな。」ということだったのだろう。

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 これも実際に誰の口からも語られたことではなく、推測にすぎないのだが、今回の一般公開日で一貫して伝えていたメッセージ。その奥には「F1で絶対勝つために新しいことに挑戦していく」という強い覚悟が現れていた気がする。

 2015年シーズンのF1開幕まで1年あまり。まだまだ先のようにも感じるが、F1復帰へのプロローグとして来季はSUPER GTでの新NSXデビュー。さらにスーパーフォーミュラではディフェンディングチャンピオンとしてカーナンバー1を付けて臨むことになる。F1復帰前だけに、ここでの負けはもちろん許されない。やはり熾烈な争いが繰り広げられている国内レースで勝ち、勢いをつけてF1の舞台に復帰したいと考えているに違いない。

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 モータースポーツでの勝利とともに“世界の名門”として名誉を手にしてきたHondaが、今度はどんな形で、どんな走りでファンを魅了してくれるのか?Hondaが今までにない覚悟と気合いで臨む新たな挑戦から、目が離せない。

『記事:吉田 知弘』

吉田 知弘(Tomohiro Yoshita)

投稿者プロフィール

フリーのモータースポーツジャーナリスト。主にF1やSUPER GT、スーパーフォーミュラの記事執筆を行います。観戦塾での記事執筆は2010年から。翌年から各サーキットでレース取材を重ねています。今年はSUPER GTとスーパーフォーミュラをメインに国内主要レースをほぼ全戦取材しています。
初めてサーキット観戦される初心者向けの情報コーナー「ビギナー観戦塾」も担当。

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