【SGT】2014第5戦富士~Special Report~:山本が逃げ、マコが守り、チームが支えて掴んだ勝利

©T.Yoshita/KANSENZYUKU

 8月9・10日に開催された2014年SUPER GT第5戦富士。台風11号の影響で大荒れの天気となった決勝レースは、6番手スタートのNo.18 ウイダーモデューロNSX CONCEPT-GT(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ)が終始圧倒的な強さをみせ今季初優勝。苦戦が続いていたホンダNSX CONCEPT-GTに念願の初勝利をもたらした。あまり得意とはしていない富士スピードウェイでの1戦で、他を圧倒。最終的にセーフティーカーでのチェッカーとなったため記録上は僅差でのゴールとなったが、それまでは後続に15秒以上もの大量リードを築く独走劇をみせた。

 その裏には、エースの山本尚貴をはじめ、前回SUGOから復帰したフレデリック・マコヴィッキィの力だけでなく、メカニックたちのチームワークも勝利を呼びこむ原動力となった。

【山本が魅せた、ここ一番での集中力。再開後に勝敗を決める独走劇を披露】
 スタートドライバーを任されたのはエースの山本尚貴。前日の予選Q2ではポールポジション獲得のチャンスがありながらも急激な天候変化やトラブルなど不運が重なり6位に終わってしまった。「このクルマのパフォーマンスを100%発揮できなかった」と悔しい表情をみせていた山本。そのリベンジを果たすべく、雨が降りしきる中スターティンググリッドについた。

 スタートが切られると、1コーナーでポジションを2つアップ。その後も順位をどんどん上げていき、いきなり存在感をみせつける。そして8周目に入るところでトップに浮上。あとは少しでも後続との差を広げて後半のマコヴィッキィにバトンを渡すだけだった。

 ところが、ここから天候が急変。雨脚が一気に強くなりセーフティーカーが導入されると17周を終えたところで赤旗中断が決定。全チームがグリッド上にマシンを止めドライバーはピットで待機を余儀なくされる。

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 もちろん、天候回復が見込めなければ、この時点でレース終了になる可能性も十分あったが、山本はピットでじっとモニターを見つめレースが再開された時のことだけを考えていた。

 赤旗中断というのは、安全にレースを進行する上では欠かすことができないルールではあるが、ドライバーやチームからすれば流れを大きく変えてしまう要素にもなりかねない。一度集中力が途切れれば、それを再び高めるは短時間では難しいこと。チームスタッフや相方のマコヴィッキィとは必要最低限のことしか話さず、集中力を維持しようと務めていた。

 そして16時15分に再開とレースコントロールが発表があると「よしっ!!」と気合いを入れ、再び18号車のコックピットへ。セーフティーカー先導で再びレースが始まると、まるで赤旗の続きを見ているかのような快進撃で、あっという間に15秒のリードを確保。エースとして完璧な仕事をみせた。

 もちろん、この快進撃には様々な要因があったことは間違いないが、赤旗中断で流れがリセットされながらも、再び自分から流れを掴みにいく山本。昨年から際立っている“ここ一番での勝負強さ”が今回も光ったレースだった。

【不測の事態に備えて、今回は守りの走りを徹底。マコヴィッキィが魅せた“新たな引き出し”】
 今回も後半スティントを担当するのはフレデリック・マコヴィッキィ。2位のNo.23 MOTUL AUTECH GT-R(松田次生/ロニー・クインタレッリ)との差は約15秒。何もトラブルやアクシデントが起きない限り逆転は難しい。しかしマコヴィッキィとチームは、その「何かの事態」に備えて後半スティントを戦った。

 18号車が新しいウエットタイヤを装着し、ピットを離れてから数周後。これまで叩きつけるように降っていた雨は止み、台風の影響による強風で路面が急速に乾き始め、ラップタイムも向上。終盤には後方に沈んでいるライバルたちもドライタイヤに履き替えて勝負に出るほどだった。ここまで乾き始めると、ウエットタイヤへの消耗は少なからず激しく。ただ逃げる立場にあった18号車としてはタイヤ交換といった大胆な作戦に出ることはできない。そして、朝から何度も土砂降りになっては止むという天候不順な一日。チームは終盤に再び雨が降ってきた時のことを想定して、マコヴィッキィにタイヤのマネジメントを命じる。

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 「また終盤に雨が降ってくるかもしれないから、できるだけタイヤを労って、再びウエットになった時に備えようと、エンジニアからのアドバイスに従って走った。尚貴が大きなギャップを築いてくれたから、それをしっかり守りながら、プッシュせずに最後までタイヤのことを意識して走ったよ。」

 これまでのマコヴィッキィといえば、とにかくプッシュして前のマシンを追いかけていくというイメージだったが、今回は15秒の貯金がある中での後半スティント。「そのリードを確実に守る」走りに徹したのだ。

 そして、チームの予想通り残り10周というところで再び大雨になる。ところが一つだけ想定外な事態が発生してしまう。あまりにも雨が強くなり過ぎてしまい、残り7周というところでセーフティーカー出動が決定したのだ。

 これで15秒あった後続との差は一気にゼロに。もし残り数周でレースが再開されれば23号車とのマッチレースになることは確実。場合によってはトップの座を奪われる可能性もあった。ガレージ内で祈るようにモニターを見つめる山本とチームクルー。しかし、コックピット内にいたマコヴィッキィには余裕があったという。

 「これまでしっかりタイヤマネジメントをしてきたから、あのウエットコンディションでもタイヤがグリップしているのは十分に感じていた。残り数ラップで、レースが再開しても力強く走る自信はあったよ。」

 山本が攻め、マコヴィッキィが守る。2人がそれぞれの持ち味を存分に発揮したレース運びが、今回の勝利につながったことは間違いないだろう。最後はセーフティーカー先導のままでチェッカーと、少し消化不良に終わってしまった感があるのは否めないが、もし残り数周でレースが再開していたとしても、結果に変わりはなかったかもしれない。

【スタート前に抱えていたトラブル…2人の激走を影で支えた童夢のメカニックたち】
 決勝では6番グリッドから目覚ましい走りをみせた18号車ウイダーモデューロNSX CONCEPT-GT。実はスタート前には深刻なトラブルを抱えていた。

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 大雨により、急きょ決勝直前のウォームアップ走行が8分から20分に増やされた。18号車はまず山本が乗り込んで、タイヤやブレーキのウォームアップを行う予定だった。ところが1周のチェック走行を終えピットイン。マシン各部の確認、微調整を行い再びピットを離れようとした瞬間にエンジンがかからないアクシデントが発生。このトラブルは前日の予選Q2でも発生しており、詳しい原因がつかめていなかった。急きょECUを交換し対策を講じるが、結局ウォームアップはほとんど走ることなくチェッカー。グリッド試走では問題なくエンジンがかかりピットを後にしたが、実際に確実にトラブルが解消したという保証がない中でのスタートだったのだ。

 速さはあるのにトラブルで100%の実力を発揮できない。山本もマコヴィッキィもグリッド上では険しい表情をみせるが、そんな時に奮闘したのが童夢レーシングのメカニックたちだった。グリッドに着いてからも時間いっぱいマシンのチェックを行い、ECUだけではなく配線の取り替え作業も敢行。出来る対策は全て行い18号車を送り出した。これが功を奏したのか、問題なくエンジンがかかりレースはスタート。ピット作業でもミスのない完璧な作業をみせ、2人の走りを影でサポート。こちらも優勝への原動力になった。

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 近年のGT500はメーカー、タイヤ競争が激化しレベルも格段に上がってきている。速いマシン、良いタイヤを操るドライバー。それを影で支え、彼らに100%の環境を用意するチームワーク。そこに関わる全ての要素が完璧に揃わないと勝利を掴みとる事ができない。昨年の鈴鹿1000kmでもそうだったが、今回も悪天候の中で18号車は全ての要素を完璧にそろえて勝利を呼び込んだ。

 次回は山本/マコヴィッキィ組にとっては初優勝の地である鈴鹿。彼らが狙うのは、もちろん伝統の1戦での連覇だ。今回の勝利でウェイトハンデは68kg(うち燃料リストリクターの制限で50kg分を換算)に増えてしまうが、6月の公式合同テストではレースを想定してロングラン走行で走りこんでおり、タイムも上々だった。

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 レース後は天澤監督と喜びを爆発させていた2人だが、今回の勝利に満足している様子はなく、記者会見で山本は「僕もフレッドも目標はもっと高いところにある。この勝利で、車体やエンジン開発に拍車がかかればと思う。また鈴鹿で勝って花火のカウントダウンをしたい」と気を引き締めてていた。マコヴィッキィも「夏の鈴鹿はミシュランタイヤとの相性も良い。また優勝して、ここ(記者会見の席)に戻ってきたいね」と自信をみせていた。

 鈴鹿1000kmがSUPER GTのシリーズ戦の一つとして組み込まれた2006年以降、同一チームが連覇をしたという例はない。その第1号となるのか?次回も18号車の走りから目が離せない。

『記事:吉田 知弘』

吉田 知弘(Tomohiro Yoshita)

投稿者プロフィール

フリーのモータースポーツジャーナリスト。主にF1やSUPER GT、スーパーフォーミュラの記事執筆を行います。観戦塾での記事執筆は2010年から。翌年から各サーキットでレース取材を重ねています。今年はSUPER GTとスーパーフォーミュラをメインに国内主要レースをほぼ全戦取材しています。
初めてサーキット観戦される初心者向けの情報コーナー「ビギナー観戦塾」も担当。

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