9月11日に行われたSUPER GT第6戦富士。GT300クラスはNo.4初音ミク グッドスマイルBMW(谷口信輝/番場琢)が第3戦セパン以来となる今季2勝目を獲得した。
今回の初音ミクBMWは、ウェイトハンデ90kg。さらに性能調整が強化され、今までにも増してマシン性能が制限された中でのレースとなったが、予選からマシン性能制限のがかかっているマシンとは思えないほどアグレッシブな走りを見せ、予選2位のNo.26Verity TAISAN Porscheに0.442秒の大差をつけてポールポジションを獲得。決勝では序盤に26号車と接触するシーンもあったが、その後は徐々に後続を引き離す走りを見せ、2位以下に20秒以上の大差で、後半の番場にバトンタッチ。
セパン戦では、終盤に11号車に迫られるシーンもあった番場だが、今回は安定した走りを披露し、独走での優勝を飾った。
しかし、独走の裏には、色々なトラブルを抱えながらの走行になっていたようだ。
[レース前の初音ミクBMW。奥では谷口と番場が真剣な表情で打ち合わせをしている]
★★ここがポイント(1)「今週末は強運があった」★★
スタート直後は、90kgのウェイトハンデも影響し、26号車のポルシェを接戦になったミクBMW。2周目のコカコーラコーナーへ向かう直線の部分で少し接触をしてしまう。これが原因で26号車のタイヤはパンクし、順位を大きく後退。幸いミクBMWには大きなトラブルはなく、順調にトップ快走を始めていったものの、少なからず影響が出ていたという。それについてエースの谷口は、こう振り返った。
谷口信輝「最初は26号車も速いクルマで、松田秀士選手の勢いもありました。序盤、軽く接触して26号車はタイヤがバーストしてしまいましたが、自分達もマシンも、接触で右側のミラーが潰れてしまい、さらに前半終わってピットに戻ってきてタイヤを外してみたら、側面が切れていて“あわやバースト”という状態でした。その辺は(タイヤが上手く持ってくれたのも)今週は運が良かったのかなと思いました。」
「(今回の勝利でランク首位になりましたが?)最高の結果です。元々富士は、クルマとの相性も良くて、必ず上位に入らなくちゃいけないサーキットだったので、11号車にポイント差を詰めておきたかったレースです。90kgのウェイトハンデや性能調整もあり、どうなるか分かりませんでしたが、晴れであれば自分達の方が有利になるかなと思っていました。今回はヨコハマタイヤさんが用意してくれたタイヤが素晴らしくて、直線だけでなくコーナーでも速さを発揮する事が出来ました。」と富士のレースを振り返った。
この勝利でチャンピオン争いも65ポイントで首位にたった。予選ポールポジション後の記者会見で谷口「チャンピオン争いを考えると、この富士で大量得点を目指したい。」とコメントしていたが、ライバルの11号車がリタイヤしてしまったことにより、一気に逆転する事が出来た。
しかし、初音ミク号にとってはGT300王座獲得に向けて負けられないレースだったが、実はチャンピオン争い以外にも“どうしても勝ちたい”レースだった。
★★ここがポイント(2)「個人スポンサーの皆さんの前で独走で優勝したかった」★★
初音ミクBMWは、企業スポンサーの他に多数の個人スポンサーによって支えられている。先日、セパンで悲願のチーム初優勝を飾った後、多くの個人スポンサーの方から、このようなリクエストをいただいたと、初音ミク号のドライバーとして長年活躍する番場琢が明かした。
「セパンで優勝した後に、個人スポンサーの方々から“日本でポールトゥウィンするミク号の姿を見たい!”というコメントが凄く多くて、そのチャンスが一番大きいのが富士だったので、この富士では何としても実現させたいと思ってサーキット入りしました。」
[グランドスタンドで声援を送る初音ミク号の個人スポンサーやファンの皆さん]
この初音ミク号は、各個人スポンサー(ファン)の皆様が、チームに出資をし、自ら「チームの一員」となって応援するスタイルのチーム。SUPER GTに“痛車旋風”を巻き起こした最初のマシン・チームだ。
そのチームで2009年第6戦から参戦している番場琢にとって、個人スポンサーの皆様は仲間・家族のような存在。週末はレースセッション以外のピットウォークなどでも時間の許す限りファンや個人スポンサーの皆さんにサインをし、記念撮影にも笑顔で応じている。
[笑顔でファンにサインをする番場]
今季は元F1ドライバー片山右京氏、GT300を代表するドライバーでもある谷口がチームに加入した初音ミクBMW。しかし、個人スポンサーの皆様と何年も一緒に戦ってきた番場にとっては、今回の優勝は特別な意味を持っていたようだ。
番場琢「セパンでの優勝は、ホッとしたという感じが強かったのです。ただ今回の富士は関東から一番近いサーキットで、凄い人数の個人スポンサーの方々が観に来てくれて、緑の帽子、緑のタオル、緑のシャツと、どこから見ても(ミク号の個人スポンサー・応援団だと)分かる人たちがたくさんいて、その中で優勝したいという気持ちは凄く強かったです。僕が担当したスティントは、序盤の接触でミラーが見えなかったり、ブレーキにも不具合が出ていましたが、ヨコハマタイヤさんが作ってきてくれた素晴らしいタイヤのおかげで安定して走れたし、ミラーが見えない分、チームと連携してGT500マシンの処理とかをうまくやる事が出来ました。本当に嬉しいという言葉しか出てこないくらい、嬉しいです。」
(Q:最後に今回観に来てくれた、またTVで応援していた個人スポンサーの皆さんにメッセージをお願いします)
「屈折3年とちょっと。セパンで優勝もしたけど、個人スポンサーの皆さんの前で、ぶっちぎって優勝したい気持ちが強かったので、大変長らくお待たせしました!やっと国内で優勝することが出来ました!皆さんの応援があったからこそ、優勝も出来たと思うし、序盤のタイヤバーストの危機を乗り越えた強運とか、ミラーが見えなくてもチーム一丸となってGT500マシンとの接触を回避できたし、僕のスティントではブレーキの不具合があったけど、最後まで走りきれました。本当にありがとうございました!」
そして、優勝記者会見が終わり、パドックに戻ったドライバーたちを待っていたのが、個人スポンサーや初音ミク号のファンの皆さんだった。夕暮れが迫り、各チームが撤収作業を進めるなか、国内初勝利の喜びを分かち合っていた。
マシンを全開で走れらせるドライバー、マシンを最高の状態にメンテナンスするメカニック、それを影で支えるチームスタッフ、そしてミク号が勝つように、最後まで必死に応援する個人スポンサー・ファンの人たち。
今回の勝利は、一見2011年のSUPER GTシリーズ戦の1つの勝利なのかもしれないが、その1勝のために、これだけ多くの人たちの努力と情熱、勝つことに対する思いが詰まっている事を、改めて感じたレースだった。
『記事:吉田 知弘』