【SUPER GT】ポッカ1000km:GT500レースレポート「“王者から名門へ”MOLAが魅せた強さ」

SUPER GT第5戦「第41回インターナショナルポッカ1000km」。GT500クラスはS Road REITO MOLA GT-R(柳田真孝/ロニー・クインタレッリ)が優勝。日産勢に待望の今季初勝利をもたらした。

今回は4年ぶりの1000kmレースということもありタイヤのバーストなどトラブルやアクシデントが多発。特にGT500クラスはサバイバルレースとなった。ライバル勢が苦戦する中、今季未勝利のGT-R勢は一時トップ4を独占するなど好調。その中でも安定した速さをみせていたMOLA GT-Rが勝利を手にした。しかし、彼らのレース内容を紐解いていくと決して順調ではなく、不運なアクシデントも少なくなかった。

今回は、度重なる不運を乗り越えて勝利を掴んだMOLA GT-Rの173周を、詳しく振り返っていこうと思う。

 

【ポイント(1):1000kmだから遭遇する“予期せぬアクシデント”】
今季初のポールポジションからスタートしたMOLA GT-R。スタートで順当にトップを守ると序盤から後続を引き離した。33周目にはスタートを担当したクインタレッリから柳田に交代し、順調に1000km先のチェッカーを目指して周回を重ねた。しかし、ここで予期せぬアクシデントに巻き込まれてしまう。

38周目のデグナーカーブでGT300クラスのGSR ProjectMirai BMW(佐々木雅弘)と交錯。両者の判断ミスで接触してしまう。幸いコースアウトは免れたMOLA GT-Rだったが、接触の影響で左フロントタイヤの内圧が著しく低下。危険と判断した柳田はすぐに緊急タイヤ交換のためピットに戻る。MOLA陣営としては全く予想外のピットストップだった。

実際に柳田も「あのアクシデントで終わったと思った」というほど、致命的なタイムロスをしてしまったMOLA GT-R。ドライバー、チーム、そして多くのファンも優勝争いから脱落したと感じた瞬間だっただろう。だが、ここからの驚異的な挽回が後々のトップ奪還につながった。

【ポイント(2):1000kmだから訪れた“起死回生のチャンス”】
緊急ピットインで7位まで順位を落としてしまったMOLA GT-Rだったが、予期せぬ形で履くことになった新しいタイヤをフルに使ってライバルより1秒近く早い1分55秒台のペースで周回。48周目にKeePer Kraft SC430、続いて57周目にKEIHIN HSV-01を抜き、トップを走るカルソニックIMPUL GT-Rを追いかけた。
この直後、展開が大きく動き始めるARTA HSV-010と接触したGREEN TEC &LEON SLSが大クラッシュ。ドライバー救出とマシン回収のため、62周目にセーフティカーが導入された。これでトップとの差が一気になくなった。さらにトップのインパルGT-Rと3位ケーヒンHSVが2回目のルーティーンピットを行い、2位に浮上。セーフティカーが解除された直後の66周目にDENSO KOBELCO SC430を抜いて再びトップに返り咲く。

一度は勝利への流れを失ってしまったMOLA GT-R。しかし最後まで諦めない姿勢が功を奏し、再び優勝争いに名乗りを上げたのだ。

【ポイント(3):トップを守るためにラスト10周のスプリントバトル】
一方でライバル達はトラブルやアクシデントとの戦いを強いられていた。82周目には序盤から優勝争いに加わっていたDENSO KOBELCO SC430が駆動系トラブルでリタイヤ。ホンダ勢の中でも上位争いを演じていたケーヒンHSVも93周目にタイヤバースト。さらに157周目に130Rで再びタイヤがパンクし大クラッシュ。幸い、ステアリングを握っていた塚越広大に大きなケガはなかったが、マシン回収のために2回目のセーフティカーが出動する。

1回目のセーフティカー時にはトップとの差をゼロに出来たため“得”をしたが、逆に2回目は今まで築いてきた約1分近いリードが水の泡となり“損”をする形となってしまった。これにはクインタレッリも「またか・・・」と思ったそうだが、気持ちを切り替えて再スタート後のスプリントバトルに備える。

ここで悲願の今季初優勝に向け、チームが出した指示は「タイヤと燃費のことは気にせず、チェッカーまでプッシュ」だった。何度もテストを重ね熟成させてきた2012年仕様ニッサンGT-Rのコンディション。昨年王座獲得の原動力となったミシュランタイヤの性能。そして名手ロニー・クインタレッリの腕を信じて、残り12周を一気に逃げ切る作戦を選んだ。

再スタート直後からMOTUL AUTECH GT-Rを中心とする4台による2位争いが勃発。この隙にクインタレッリは一気にプッシュ。約5時間半走り続けてきたマシンにも関わらず、166周目に1分54秒795を叩きだすなどベストタイムを連発。後続との差を10秒以上に広げる。後方ではクラフトSC430の国本雄資が奮起しGT-R勢をゴボウ抜き。残り7周で2位に浮上するも、その時にはMOLA GT-Rは遥か前方を走っており、追撃するチャンスは残っていなかった。

ゴール直前に訪れたピンチを難なく切り抜けたMOLA GT-R。そのまま柳田をはじめとするチームメンバーと鈴鹿に駆けつけた多くの日産応援団が待つメインストレートへ帰り、歓喜のトップチェッカーを受けた。

GT500にステップアップして2年目。長年GT300での経験はあったものの、国内3大メーカーが凌ぎを削るGT500の舞台ではまだまだ若手チームという印象が強かった。しかし今回は、ただ速いだけでなくレース展開に応じて“緩急をつける走り”をみせ、少々のアクシデントにも屈しない強さをみせたMOLA。その存在感はニスモやインパルといった名門チームと肩を並べるほどのものがあった。

この勝利により一気に25ポイントを勝ち取ったMOLAは、トータル43ポイントに伸ばし首位ZENT CERUMO SC430(立川祐路/平手晃平)に対して4ポイント差に迫った。

これについて柳田は「ここで勝たないとチャンピオン争いは厳しいと思っていたので勝ててよかったです。チャンスがつながった以上、残り3戦も全力で頑張りたいです」と意気込みを語ってくれた。クインタレッリも「前半戦は上手く行かなくて皆からも“今年の日産はダメだ”と言われたこともあったけど、僕自身は第6戦富士までハンディウエイトもあるからチャンスはあると思っていた。今回やっと勝てて嬉しい。」とコメント。

まだまだSUPER GT初のタイトル連覇に向けて諦めていない様子だった。

開幕戦から絶好調のレクサス勢。それに対抗して優勝争いを演じてきたホンダ勢。序盤は苦戦したものの中盤戦で息を吹き返してきた日産勢。この3メーカーによる2012年のタイトル争いは、例年以上に接戦になり見応えのあるバトルになりそうだ。

『記事:吉田 知弘』

吉田 知弘(Tomohiro Yoshita)

投稿者プロフィール

フリーのモータースポーツジャーナリスト。主にF1やSUPER GT、スーパーフォーミュラの記事執筆を行います。観戦塾での記事執筆は2010年から。翌年から各サーキットでレース取材を重ねています。今年はSUPER GTとスーパーフォーミュラをメインに国内主要レースをほぼ全戦取材しています。
初めてサーキット観戦される初心者向けの情報コーナー「ビギナー観戦塾」も担当。

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