【SUPER GT】ポッカ1000km:GT300レースレポート「ギリギリのところで掴んだ勝利」

19日(日)に決勝が行われたSUPER GT第5戦ポッカ1000km。GT300クラスはtriple a vantage GT3(吉本大樹/星野一樹/吉田広樹)が今季初優勝を飾った。

今シーズンは優勝争いに絡む速さを持ちながらも、不運なトラブルやアクシデントに悩まされ、なかなか結果がついてこないレースが続いていた。今回の鈴鹿でも、土曜朝に行われた公式練習からライバルに1秒近い差をつける速さをみせ、午後の公式予選では無限CR-Z(武藤英紀/中嶋大祐)の台頭に驚かされながらも、きっちりポールポジションタイムをマークした。ところが夕方になって事態は急変。なんと車検でマシンに違反箇所が見つかり失格。ポールポジションはおろか、なんと最後尾からのスタートを余儀なくされてしまう。

しかし、絶好調のアストンマーティンのマシンと今季初勝利への執念に燃えていた吉本と星野にとって、最後尾スタートは大きなハンデとはならなかった。スタートドライバーを担当した星野は「この週末、そして今シーズンの鬱憤を全部ぶつける走りをしていた」と、序盤から次々とGT300車両をゴボウ抜き。たった14周でGT300クラスのトップに浮上してみせた。その後もアストンマーティンの快進撃は留まることはなく、1周のラップタイムでも常にライバルと比べて約2秒速いペースで後続との差を一気に広げていった。

まさに桁違いの速さで周回を重ねるアストンマーティン。実はこのペースの差には、GT300の優勝争いに大きく関わる「戦略」が影響していた。

【ライバルが描いていたアストンマーティンを攻略する“唯一の作戦”】
序盤から他を圧倒する速さをみせていたアストンマーティンだが、彼らには一つだけ弱点があった。それは「燃費の悪さ」である。今年のGT300クラスは大きく分けて2つの勢力で争われている。一つはポルシェやアウディR8など、ヨーロッパの耐久レースなどで数々の実績を残しており、現在のGT300でも主流になりつつあるFIA-GT3規格の車両。もう一つはスバルBRZやプリウス、CR-Zなどの国産車をベースにレース用に改造されたJAF-GT車両だ。

 

ここまで4戦が終わりGT3車両が全勝。その結果からも分かる通り、性能面でアドバンテージを得ている。しかしJAF-GT車両と比べると燃費が悪く、ピット作業時に給油時間が長くかかってしまうのが弱点なのだ。さらに今回は通常の3倍以上のレース距離となる1000km。最低でも4・5回のピット作業が必要、その分トータルのロスタイムも通常のレースより長くなる。そのため、コース上で燃料をセーブした走りを徹底していければ、給油のためのピットストップを1回(ロスタイムは約50秒〜1分00秒)減らすことが出来る。

GT3勢の中でも燃費が良くないアストンマーティンは毎回1分以上のピットストップを強いられてしまうため、コース上でできる限りプッシュし、給油でのロスタイム分を相殺する作戦を選択。一方、ライバル勢はとにかく燃費をセーブしてピットでのロスタイムを減らす戦略に出た。

レース前半から大きな貯金を稼いでいたアストンマーティンだったが、実は“目に見えないライバル”とのコンマ数秒単位での勝負をしていたのだ。

【燃費セーブ組の相次ぐ“ガス欠”】
無敵状態のアストンマーティンを逆転するため、1秒でも給油時間を減らしたい。綿密に燃費を計算し、ギリギリのところまでピットインを我慢した走りが逆に仇となってしまう。
35周目、アストンマーティンのピットインにより暫定トップにたったGSR 初音ミク BMW(谷口信輝/片岡龍也)だったが、突然逆バンク手前で失速。そのままコース脇にマシンを止めてしまった。計算上ギリギリ持つはずだったガソリンが底をついてしまったのだ。今シーズンは性能調整の影響もあり、マシン面が他より劣っているBMW Z4 GT3。速さで勝てない分、燃費などの戦略で上位進出を狙うレースが多かったが、第3戦セパンに続いてのガス欠リタイヤとなってしまった。

 

夏の鈴鹿では2連勝中と相性の良いSUBARU R&D SPROT。今年はBRZにスイッチして山野/佐々木組が3連覇を狙ったが、こちらも燃費走行を徹底した結果、93周目にガス欠ストップ。無念のリタイヤを余儀なくされてしまう。そこまでガソリンを削って給油時間を減らす戦略でないと勝てないくらい、今回のアストンマーティンは各ライバル勢にとって手強い存在だったのだろう。

【100周以上のプッシュでエンジンが悲鳴。ギリギリでのチェッカーフラッグ】
相次ぐライバルのリタイヤにより、走るに連れて有利な展開に持ち込んでいったアストンマーティン。気づけば3位以下を周回遅れにし、2位に1分以上の大差をつける独走劇を見せていた。しかし、約3レース分に相当する900kmを常にプッシュし続けてきたマシンは知らない間に限界に近づいていた。

157周目、KEIHIN HSV-010(塚越広大)の大クラッシュにより、この日2回目のセーフティカー導入。これで後続との差が一気に縮まってしまった。これまでのマシンパフォーマンスを考えれば、特に大きな心配はなかったが、アンカーを務めた吉本はマシンの異変に気がついていた。「セーフティカーの直前あたりから、エンジンの調子がおかしく、ミスファイヤーのような症状が出始めていました。」
再スタート直後、その症状はさらに悪化。ストレートを中心にスピードが伸びず、10秒後方にいた2位NDDP GT-Rの関口が迫ってきた。

「ここまで積み上げてきたレースが、残り数周で崩れるのではないか・・・。また、勝てないのか・・・」

チームスタッフやピットで待つ星野と吉田、そしてステアリングを握る吉本も一瞬不安がよぎったが、今度は彼らに味方する展開が待ち受けていた。
最後の最後に来て関口が黄旗区間での追い越しペナルティ。最後はトラブルを抱えながらの走行となったアストンマーティンだったが、何とかトップを守りきりチェッカー。数々の試練を乗り越え、今季初勝利を手にした。その直後、マシンは緊張の糸が途切れたかのように、ウイニングランの途中でエンジンルームから出火、急きょコース脇にマシンを止めた。吉本と星野をはじめとするチームの思いに、ギリギリのところでマシンも耐え切って、多くの期待に応えた。

残念ながらマシンはパルクフェルメに帰ってこられなかったが、表彰台の前で再会した吉本と星野はガッチリと抱擁。「全力で1000kmを走り抜いた!」という清々しい表情を見せていた。

今回の優勝によりトータル47ポイントに伸ばしたアストンマーティン。一気にGT300ランキング首位に浮上し、後半戦でのタイトル争いに名乗り上げる1戦となった。

『記事:吉田 知弘』

吉田 知弘(Tomohiro Yoshita)

投稿者プロフィール

フリーのモータースポーツジャーナリスト。主にF1やSUPER GT、スーパーフォーミュラの記事執筆を行います。観戦塾での記事執筆は2010年から。翌年から各サーキットでレース取材を重ねています。今年はSUPER GTとスーパーフォーミュラをメインに国内主要レースをほぼ全戦取材しています。
初めてサーキット観戦される初心者向けの情報コーナー「ビギナー観戦塾」も担当。

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