目まぐるしく変わる天候と、予期せぬタイミングで入ったセーフティカーの影響で大荒れのレース展開となったSUPER GT第6戦富士。同シリーズでは、もはやスプリント戦と言ってもよい300kmレースの中で何度もトップが入れ替わるレースとなったが、結局ポールポジションからスタートしたZENT CERUMO SC430(立川祐路/平手晃平)が今季初優勝を手にした。
昨シーズンのランキング2位。チャンピオンを獲得した柳田真孝/ロニー・クインタレッリ組が揃ってチームを移籍するなど、他陣営がドライバーズラインナップを入れ替える中、38号車のセルモはそのままの体制。もちろん、開幕前からチャンピオン候補として注目を集めていた。ところが周囲の期待とは裏腹に苦しいレースが続いてしまう。第2戦富士(500km)では2位表彰台を獲得したものの、第3戦セパンでは2位を走行していながら不運なアクシデントで交代。続く第4戦SUGOでも雨がパラつく難しいコンディション下で立川が激走。トップに浮上するがGT300のマシンと接触しスピン。優勝のチャンスを逃してしまった。前回の鈴鹿1000kmでも、スタートから上位争いに加わり順調に周回を重ねていたが、ちょうどピットインしようとしたタイミングでセーフティカー。ガス欠寸前だったため、チームはリタイア回避のためピットクローズの状態でピットインを決断。もちろんルール違反になるため90秒のストップ&ゴーペナルティを受けポイント圏外へ。
このように気がついたら3戦連続でノーポイントに終わるレースが続き、トップから19ポイント差のランキング11位と低迷。数字上では逆転タイトルの可能性はあるものの、それを実現させるためには富士での優勝は絶対だった。
並々ならぬ意気込みで臨んだ今回の富士。予選では平手がトップでQ1通過を果たすと立川もQ2でトップタイムをマーク。それでも勝つために一番有利なポールポジションを確実に手に入れるべく、チェッカーフラッグが振られるまで繰り返しタイムアタックを続けた。結果、誰も立川のタイムを破ることが出来ず今季初ポールが決定。しかし、その直後に行われたポールポジション記者会見に登場した2人には全くと言っていいほど笑顔はなかった。「ポールをとれたことは嬉しいけれど、重要なのは明日のレース結果。ここで喜んでいる暇はない」と、2人揃って逆に気を引き締めていた。
そして迎えた7日(日)の決勝。とにかく勝つことだけを考えてスタートした38号車はまず平手が前半スティントを担当。1コーナーでトップを死守すると、これまで悔しさを一気に吹き飛ばすかのような快走で後続を引き離し、15周終了時点では5秒のリードを築く。このまま立川にバトンタッチしたかったが、後続でクラッシュが発生。その影響でコース上に破片が散乱しセーフティカーが導入されることに。ちょうどこのタイミングでドライバー交代が可能になるレース3分の1を消化。セーフティカー先導中はペースが通常より遅くなるため、ここで入ってしまったほうが最終的に得なのだ。
このため23周終わりで38号車を中心にGT500は13台がピットイン。ここで名門セルモのチームメカニックが素早い作業をみせるが、またしても不運が起こってしまう。隊列の先頭でピットインしてきたため、38号車が動き出そうとした時にはGT300クラスを含めた後続車両が次々とピットインし始めていた。約40台分のピットボックスが並ぶSGTでは同じタイミングにピットイン車両が集中すると大混乱になる場合があり、出たくても出られないというハプニングが起こってしまった。ここで数秒のタイムロスを強いられた結果REITO MOLA GT-R(本山哲/関口雄飛)の逆転を許してしまう。さらにレースが再開されると勢いに乗るKEIHIN HSV-010(塚越広大)にも抜かれ4位に後退。「今回も運に見放されて勝てないのか・・・」そんな悪い空気が、一瞬38号車のピットには漂った。しかし、これまで何度も苦しい戦いの中で勝利しチャンピオンを勝ち取ってきた名門チームは最後まで冷静にレースを進めた。
「セーフティカーで混乱して順位を落としてしまったのは想定外でしたし、正直“またか・・・”と考えた瞬間もありました。さらに予想外のピットストップで戦略も狂ってしまい、チームからも燃費が厳しいかもしれないという話をされていたので、その辺も気を使わなければいけない状況でした。でも途中から大丈夫だという無線が入ったので、あとはプッシュしてトップを狙いました。」と振り返った立川。そうすると次第に流れが38号車に傾き出す。2位を走っていた1号車MOLAはSC解除時の違反でペナルティを受け後退。さらに各車がピットインした際に唯一ステイアウトを選択したD’Station ADVAN GT-R(安田裕信/ミハエル・クルム)。後半に雨が降ってきた時のことを想定した戦略だったが、結局雨は降らず41周目にピット。残るは17号車の塚越のみとなった。じわじわはと追い詰めていき、SC430が得意とする直線スピードの伸びも利用して42周目のメインストレートで並びかけると、そのまま1コーナーでパス。再びトップの座を奪い返す。その後、何周かにわたって1秒以内の接戦状態だったが「雨は気になったけど、トップに立ってからは比較的楽に走れた」と立川も言うように、全く隙を与えない走りを披露。そのまま66周を走り切りトップチェッカー。欲しくて欲しくて仕方がなかった“今季1勝目”をゲットした。
ゴール時にはサインガードに登ってガッツポーズで出迎えた平手。予選日から「決勝で勝たなければ意味が無い」と、あれほどこだわっていたレースで勝利したにも関わらず、マシンから降りてきた立川同様に喜びを爆発させる様子はなかった。それについて2人はレース後の記者会見でこのように語っている。
立川祐路
「僕たちの目標は勝つことではなくチャンピオンをとることなので、この1勝だけで喜ぶことはできない。ただ、今回勝てたことでやっとチャンピオン争いに復活出来たと思います。次はウェイトハンデも半減され、最終戦はゼロになるので、また勝てるチャンスはあると思う。この調子で残り2戦とも勝つつもりでいきます。」
平手晃平
「3戦連続ノーポイントで、正直最後まで“また何か起きるのではないか”と不安でしたが、最後は立川さんがきっちりトップで帰ってきてくれました。チャンピオンに向けてはここからが勝負だと思っています。次のオートポリスのテストではテストの時も手応えを感じていたし、ウェイトも軽くなるので連勝するチャンスはあると思います。SC430で走るのも今年で最後になると思うので、残り2戦勝ってチャンピオンをとって有終の美を飾りたいです。」
ここまでウイダーモデューロHSV-010(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ)、カルソニックIMPUL GT-R(松田次生/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ)、MOTUL AUTECH GT-R(柳田真孝/ロニー・クインタレッリ)ばかり目立ってきたチャンピオン争い。そこに大本命と言われていた立川/平手組が加わり、今年のGT500クラスは史上最大級の大混戦になった。その中で本来の勢いを取り戻した名門チーム・セルモ。逆転タイトルへの反撃が、いよいよ始まろうとしている。
『記事:吉田 知弘』
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