【F1】2013日本GP〜Point of the Race〜:25回目の“語り継ぎたい走り”

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 10月13日に決勝が行われた2013年のF1第15戦日本GP。これまで11度のチャンピオン決定の舞台となってきた鈴鹿サーキットでの開催は今年で25回目となった。今回は「語り継ぎたい走りがある」を開催テーマとし、レースウィーク中も過去の鈴鹿での名勝負を振り返るイベントが行われた。それだけ、日本のみならず世界中のF1ファンから名勝負が語り継がれてきた鈴鹿でのF1日本GP。今年もまた、新たに“語り継ぎたい走り”が生まれた。

【大好きな鈴鹿でみせた王者ベッテルの“新たな引き出し”】
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 前回韓国GPで連戦記録を4に伸ばし、自身も“大好き”と語る鈴鹿にやってきた王者セバスチャン・ベッテル(レッドブル)。ここ鈴鹿で優勝し、ランキング2位のフェルナンド・アロンソ(フェラーリ)が9位以下になれば、史上最年少で4年連続のドライバーズチャンピオンを決めることが出来る。ここまで4年連続ポールポジションを獲得し、決勝でも3勝を挙げているなど、相性の良いコース。早速、金曜日のフリー走行2回目ではトップタイムを記録。順調なスタートを切ったかに思えた。ところが、翌12日(土)の午前に行われたフリー走行3回目で流れが狂いだす。セッション途中にKERSのトラブルが発生し、バッテリーを急きょ交換。これによりフリー走行ではたった8周しか走れずオプション側であるミディアムタイヤを装着しての予選シミュレーションができないまま予選を迎えることに。チームスタッフ全員がランチ抜きでベッテルのマシンを懸命に修復。なんとかQ1出走に間に合ったが、最後のポールポジション争いで午前中の走り込み不足が影響し、同僚マーク・ウェバーに惜敗した。

 翌13日(日)の決勝レース。好スタートを決めて悪い流れを断ち切りたいところだったが、鈴鹿で初めてレーシングラインでないイン側からのスタートで思うようにダッシュをつけられなかったベッテル。4番手のロメイン・グロージャン(ロータス)の先行を許し3位でレースを進めていくことになってしまう。鈴鹿はDRSゾーンが1ヶ所(メインストレート)のみでオーバーテイク(追い抜き)ポイントも少ない。その中での3位後退は大きなダメージを食らったと言っても良い。1回目のピットストップを終えてもグロージャン、ウェバーを逆転できず「さすがにベッテルは今回の鈴鹿では勝てないか」というムードが漂い始めていた。だが、4年連続チャンピオンを狙う現王者は新しい引き出しを用意していたのだ。

 1回目のピットストップでは上位3人の中でも一番遅い14周目まで引っ張り、ハードタイヤへ交換。タイヤに負担がかかりやすい鈴鹿サーキットはハードタイヤでも消耗が著しく、グロージャンは29周目にピットイン。第2スティントはわずか17周で終えた。それに対しベッテルはラップタイムを落とすことなく周回を重ね続け、37周目にピットイン。結果的に自らのピットでのロスタイム分を稼ぐことはできなかったが、グロージャンより明らかに短く済む第3スティントでのスパートをかけ、41周目の1コーナーで逆転に成功する。その後、同僚ウェバーは急きょ3ストップ作戦に変更、翌42周目にピットに入り、これで完全にトップ浮上。鈴鹿での4勝目となるチェッカーを受けた。

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 これまでの3回はポールポジションから一気に逃げ切ってしまうというレースが多く、鈴鹿以外のレースでも先行逃げ切りで勝利を重ねることが多かったベッテル。だが、今回はレース巧者となり、後ろから追いかけてピット戦略で逆転するという、彼にしては新鮮な勝ち方だった。ただ、この作戦を実現させたのも、金曜日から用意周到に準備されてきたものだったのだ。実は金曜日のフリー走行1回目。ライバルがコースのチェックやミディアム・ハードの比較、マシンセッティングの確認などのプログラムをこなしていく中、ベッテルのみが同じハードタイヤで淡々とロングランを行い、タイヤの磨耗状況。それに対する走り方の確認。ラップタイムのチェックなどのデータ収集に専念。すでに予選を飛び越えて決勝で理想的なレースをするイメージ作りを早い段階で行っていたのだ。

 レース後のポディウムインタビューでもベッテルは「2ストップ作戦でいくことは最初から決めていたから、序盤から攻めすぎないようにタイヤを労りながら走り、思い切りプッシュするのはレース後半にとっておいた。2011年と同じような走りになったけど、今回はちゃんと最後に逆転することが出来た。」とコメント。コース上でのオーバーテイクができないコースだからこそ、ピット戦略で逆転するというプランを描き、その準備も怠らない。今回の逆転劇は、本当にあっぱれだった。

【鈴鹿ラストランのウェバーが魅せた“最後まで諦めない走り”】
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 11日(金)のフリー走行1回目。いよいよ今年もF1が鈴鹿にやってきたと楽しみにスタンドで待ち構えていたファンの前に、真っ先に姿を表したのが今季限りで引退を表明しているマーク・ウェバーだった。2002年から参戦し鈴鹿でF1日本GP挑戦は10回目。土曜日の予選では、誰もが世界最高のコースと絶賛する鈴鹿サーキットと思い切り攻めまくり、見事今シーズン初ポールポジションを勝ち取った。記者会見でも「最後の鈴鹿でポールがとれて本当に嬉しい」と感慨深い表情をみせた。

 決勝ではポール・トゥ・ウィンを狙いたかったもののスタート直後にグロージャンの先行を許し、追いかける展開となってしまう。チームはなんとしても彼を逆転するために当初予定していた2ストップから3ストップに作戦を変更。残り10周というところでオプション側のミディアムタイヤに履き替えてラストスパートをかけることにした。DRSゾーンもメインストレートの1ヶ所のみ。さらに抜きにくい鈴鹿のコース上で順位を上げるというのは至難の業。それでも最後の鈴鹿で悔いのない走りをしたかったウェバーはアクセルを緩めることはなく、チャンスがあればグロージャンに並びかけていくが、前に出るまでには至らない。残り周回数が少なくなるに連れ2人のバトルは白熱していき、スタンドに詰めかけた8万6000人のファンも彼らの走りに釘付けになっていった。

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 そして残り2周、ウェバーに最後のチャンスが訪れた。DRSゾーン直前のシケインでグロージャンが周回遅れのマシンを抜くのに気を取られ失速。それを見逃さなかったウェバーは最終コーナーできっちり間合いをつめてDRS稼働。グロージャンの執拗なブロックでイン側ギリギリまで追いやられるが1コーナーを先に飛び込み、ついに2位をゲット。スタンドからも拍手が沸き起こった。結果的に優勝を果たすことはできなかったが、今シーズンはトラブルやアクシデントなど不運続き。前戦韓国GPでもマーシャルの対応が悪く、トラブルで停車した自らのマシンが全焼してしまう不運に見舞われた。

 しかし、どんなに流れが悪い状況でも鈴鹿に詰めかけたウェバーファンは彼を暖かく出迎え、レース前の木曜日かれ熱心に声援を送り続けた。きっと今回の力走も、そういったファンの声援が原動力になっていたに違いない。順位としては2位だったが、今シーズンの中で一番かっこいいウェバーの走りが観られたレースだった。

【あの多重クラッシュから1年、大きく成長して鈴鹿に帰ってきたグロージャン】
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 決勝レーススタート直後の1・2コーナー。「どうせレッドブルの2人がワン・ツーでやってくる」と読んでいた多くのファンの前に1番最初にやってきたのはロータスのロメイン・グロージャン。これにはスタンドからもどよめきが起こった。実は昨年の鈴鹿では同じ4番手からスタートするものの2コーナーでウェバーを押してスピンさせてしまう。これがきっかけで後方でも多重クラッシュが発生、いきなりセーフティカーが出動する事態となった。これ以外にも昨年はクラッシュを引き起こすことが何度もあり、関係者からも問題視されることが多かった。

 そんな中、今年もロータスチームでの参戦継続が決まったグロージャンは、このチャンスを逃すまいと影で努力。バーレーン、ドイツ、韓国の3戦で表彰台を獲得。昨年の荒々しい走りが一転し、安定してポイントを稼げるドライバーに成長した。今回の鈴鹿でもスタートでトップを奪う快進撃をみせ、序盤はレッドブル2台の追撃を振りきってトップを死守。29周目に自らが2回目のピットに入るまでレースを引っ張った。その後が前述でも紹介した通りベッテル、ウェバーの追い上げに屈し3位チェッカー。だが、毎年レッドブル陣営が大得意としている鈴鹿で最後の最後まで彼らに食らいつく素晴らしいレースをみせた。残念ながら初優勝はならなかったが、間違いなく自身の評価を上げる1戦となった。

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 こうして、今年も幕を閉じた2013年のF1日本グランプリ。今回のレースも、きっと多くのファンに語り継がれていくのだろう。こうして不思議な程に毎年数々のドラマが生まれる鈴鹿でのF1日本グランプリ。果たして次は、どんなドラマが生まれるのか?今から来年の日本グランプリが楽しみで仕方がない。

『記事:吉田 知弘』

吉田 知弘(Tomohiro Yoshita)

投稿者プロフィール

フリーのモータースポーツジャーナリスト。主にF1やSUPER GT、スーパーフォーミュラの記事執筆を行います。観戦塾での記事執筆は2010年から。翌年から各サーキットでレース取材を重ねています。今年はSUPER GTとスーパーフォーミュラをメインに国内主要レースをほぼ全戦取材しています。
初めてサーキット観戦される初心者向けの情報コーナー「ビギナー観戦塾」も担当。

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