今月末から始まるプレシーズン合同テストに向け、各チームが2014年型の新マシンお披露目が始まっている。だが、今年も規定変更によりマシンの外観形状が大きく変更されている。これにより先端部分のフロントノーズは特徴的な形になり、物議を引き起こしている。
24日にもマクラーレンが新車「MP4-29」を発表したが、フロントノーズの先端のみが細く突き出ている。今までのF1マシンでは想像もつかなかったようなデザインになっているが、28日から始まるヘレス合同テストに向け、他のチームも新車発表を控えているが関係者の話によると、このノーズ形状を採用するチームが増える可能性が高いという。
関係者やファンの間では“アリクイノーズ”や“エイリアンノーズ”と呼ばれているが、「醜いものになった」と批判的な意見が相次いでいる。なぜ今回のようなノーズ形状が採用されることになったのか?今シーズンの車両規定の変更点や各チームの思惑も含めて、理由を探っていこうと思う。
【現代のF1でハイノーズが主流になっている理由】
まずは昨年までのマシンで主流になっていた「ハイノーズ」について詳しく見ていこうと思う。フロントノーズ先端部分を高く持ち上げ、ウイングを吊り下げるイメージ。最初に導入されたのは1990年のティレル019で、今では全チームが採用しているデザインだが、ちゃんとした理由がある
F1マシンが空気の流れを利用し、マシン全体を地面に抑えつける力を発生。これにより高速でもバランスを崩すことなくコーナーを曲がって行くことができる。これが、よく耳にする「ダウンフォース」だ。
[左:ウイリアムズFW11(1986年)]
[右:ティレル019(1990年)]
このダウンフォースを発生源がマシンのアンダーフロア(底の部分)や前後の大きなウイング、さらに側面についた細々した整流板や突起物などもダウンフォース向上に大きく関わっている。この中でも一番効果があると言われているのがアンダーフロア。マシン下部にいかに空気を取り込めるかによってダウンフォース量は大きく変わる。これまで(1980年台)のマシンは、ウイングに直接繋げる形状が主流になっていたが、逆にノーズの影響で空気の流れが乱れてしまい、安定した量をマシン下部に取り入れる事ができなかった。
[左:1980年代まで主流だったロウノーズ、右が現在主流のハイノーズ]
ここで発案されたのがハイノーズだ。その位置を持ち上げることによって、ウイングとの間に空気を通すエリアを確保。これで流れが乱れていない風をアンダーフロアまで運ぶことができるようになった。1990年のティレルを皮切りに翌年にはベネトンが採用。数年後には主流のデザインとなった。
2000年以降はフロント周りの規定にも自由度があり、低いノーズがトレンドになることもあったが、2009年に規定が大幅に変更。前後ウイングの形状の規定が多く変わり、現在のようなデザインになった。これによりウイングから得られるダウンフォース量が著しく低下。今までと同じような速さを求めるには、どこか別の場所で補う必要となった。
そこで各チームが再び目をつけたのはハイノーズ。規定上限の高さにすることで、空気を取り入れるエリアを大きく確保。ダウンフォース向上に貢献していたのだ。
【今年は厳しい上限。その対策として生まれたエイリアンノーズ】
ところが、今年はノーズ先端の上限が変更された。昨年までは基準面から500mm(50cm)以下でなければならなかったが、今年は半分以下の185mm(18.5cm)以下。つまり極端に低い位置に取り付けなければいけない。さらにフロントウイングの全幅も短くなり、得られるダウンフォースが大きく減少する。
そこで対策として考えだされたのが今発表されている新車のような形状。規定を満たすためにノーズ先端が中央部分のみ低く突き出し、ウイング吊り下げ部分を昨年同様広くすることで、正面から見ると規定変更のためにいくらかは狭くなっているが、空気を取り入れるスペースは確保しているのだ。さらに先端部分のサイズにも厳しい制限が設けられたため、今回発表されているような“エイリアンノーズ”や“アリクイノーズ”といったような表現をされる形状になったのだ。
[左:フェラーリF14 T(©Ferrari)]
[右:マクラーレン・メルセデスMP4-29(©McLaren-Mercedes)]
ただ、チームによっては異なるアプローチで低いノーズへの対応をしている。24日にチーム公式Facebookで新車画像を公開したロータスは、ノーズの両端を細く突き出させ中央部分にスペースを作っている。また左右非対称になっているのも、先端部分のサイズ制限をクリアするためのものだろう。一方25日に新車「F14 T」を発表したフェラーリは、以前の“段差ノーズ”を思わせるような形状を採用。先端部分は典型的な低いノーズユニットに仕上げた。前述の内容を踏まえるフェラーリのような形状は風がたくさん入り込まないのだが、これについてテクニカルディレクターのジェイムズ・アリソンは「パワーやダウンフォースの向上よりも、信頼性を優先したマシンにした」と説明。各チームが今シーズンをどう戦っていくのかによって、フロントノーズの形状にも大きな違いが生まれているようだ。
【“カッコいいF1マシン”というのは、人それぞれ】
以上のような経緯で今年の主流となりつつある新型フロントノーズ。早速ファンや関係者から「醜い」と批判的なコメントが聞こえてくる。確かに見慣れない形で、親しみを持てない方も多いと思うが、“F1マシンのカッコいい、カッコ悪い”というのは、人によって基準が異なる事だけは、是非心の中に留めておいていただきたい。
今F1を観ている方の中には「カッコいいF1マシン」に憧れて熱中するようになった方がほとんどだろう。特に一番熱を入れて一生懸命観戦していた頃のマシン形状を、無意識のうちに“カッコいい”と思い、それが基準となっていく。
現在のF1は安全性向上のため、レースをさらに面白くするために、毎年レギュレーションが変更されている。それに応じてマシン形状も変更を余儀なくされ、それまでのイメージとは全く異なるマシンが毎年登場している。形が変わると、人は無意識のうちに以前のものと比べるが、そこで出てくる結論の大半が「前のマシンの方がよかった」というもの。確かに間違いではないが、それは“これまでのF1マシンの形が好き”だからであって、これからF1に興味を持って熱中していくであろう人にとっては、おそらく今シーズンのマシンが“基準”になっていくはずだ。
例えば、2009年の大幅なレギュレーション変更時を思い出していただきたい。レース中の追い抜きシーンを増やす目的で、前後ウイングの形状が大きく変更された。この時も「なんかたチリトリみたいなマシンで嫌だ」と、様々なファンからブーイングがあった。そこから5年目を迎える今年、同じことをいう人がどれ程いるだろう?逆に2009年以降(特に可夢偉がきっかけで)F1を観始めた方にとっては、“チリトリ”と揶揄(やゆ)されたマシンが当たり前のデザインであり、それを「カッコいい」と思っている人も少なくないはずだ。
また2008年以前のようなF1マシンを一番カッコいいと思っているファンも多くいる一方で、1970〜80年代から長年観続けているファンからすれば「あの頃のマシンが一番だった」という人がいるのも事実。
このようにマシンの形状に対する“カッコいい・カッコ悪い”の基準は人それぞれ。だからこそ、無意味に“醜い”“カッコ悪い”といった否定的な印象だけが先行してしまうと、F1全体のイメージ低下にも繋がりかねない。マシンの形状以外にも魅力がたくさんある競技だけに、どこかで歯止めがかかってほしいところだ。
いずれにしても、最初は見慣れない部分も多いかもしれないが、この新しいマシンたちで今シーズンはさらに白熱したバトルを期待したい。
『記事:吉田 知弘』
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