F1第8戦イギリスGP決勝。スタートからゴールまで様々なトラブルやアクシデント、そして順位の逆転劇が起こる中身の濃い1戦。そこで優勝を飾ったのはニコ・ロズベルグ(メルセデスAMG)。直前の27日に28歳の誕生日を迎えたばかりで、今回の勝利は自身にとって“最高のバースデープレゼント”を手にし、表彰台では満面の笑みをみせた。しかし、その瞬間が訪れるまでの彼の週末は我慢ばかり強いられる展開だった。
【チームメイトに奪われた“ポールポジション”】
©MercedesAMG
29日(土)に行われた公式予選。予選Q3を終えパルクフェルメに戻りマシンから降りてきたロズベルグは、母国でポールポジションを獲得したチームメイトのルイス・ハミルトンとは対照的に、どこか悔しさがにじみ出ていた。確かに母国でポールポジションというのは素晴らしい事だが、自分にとっても今回はバースデーウィーク。もちろん、優勝して自身へのプレゼントにしたいところだが、決勝はレッドブル陣営の巻き返しが予想され勝つのは難しい状況。それであれば、何としてもポールポジションだけはという気持ちは人一倍強かっただろう。フリー走行2・3回目ではトップタイムを記録していただけに、ロズベルグにとっては嬉しい2位ではあるものの、本音としては悔しい予選結果となった。
【いきなりベッテルに先行され、我慢の決勝レース】
迎えた30日(日)の決勝。ロズベルグが獲得したイン側の2番グリッドはレーシングラインのアウト側と比べてホコリや砂が多く、最初のダッシュで不利になりやすい。実際にスタートしてみると3位セバスチャン・ベッテル(レッドブル)に先行を許し3位に後退。序盤は母国優勝を狙うハミルトンがタイヤバーストで大きく後退。2位のポジションを手に入れるが、王者ベッテルとの差を埋めることができず、我慢のレース展開を強いられた。
【終盤に明暗が分かれたドイツ人同士のトップ争い】
レース中盤はトップ2人によるマッチレース。隙を伺ってロズベルグが自己ベストタイムを叩きだして差を縮めにかかると、ベッテルもすぐに情報を受け取り即座に反応。タイヤをセーブする走りから少しプッシュする走りに切り替え、序盤から築いてきた3秒差を維持するレース運びをみせた。
2回目のピットストップでも、先にロズベルグが入ってアンダーカット(先に新品タイヤを投入しペースアップ。ライバルがピットインしている間に逆転する戦略)を仕掛けようするが、その動きも全て察知し翌周にすぐタイヤ交換を済ませ、トップの座を譲らない。先に逃したら手も足も出す隙を与えてくれない現王者に、ロズベルグは何もすることが出来ず、ただひたすら彼を追い続けなければいけない状況。それでも約3秒以内の差からは離されることなく、少しでも何かのチャンスを掴むべく、必死に王者を追いかけ続けた。
そしてレースも残り11周となった41周目。このままベッテルの今季4勝目が決まったかと思われたが、誰もが予想していなかった展開が待ち受けていた。ハンガーストレートからストウコーナーを終え、最終コーナーへ向かったベッテル。突然ギアが抜け減速。まさかまさかのギアボックストラブルが発生。ここまで完璧な走りでトップを死守してきたが、全てが水の泡となり、今季初のリタイア。それと同時に序盤から我慢のレースを強いられてきたロズベルグにとっては、やっと勝利への大きなチャンスが転がり込んできた。
ベッテルがコース内にマシンを止めたため、その回収のためにセーフティカーが導入。後続との差がある程度あったロズベルグはピットに入り新品のミディアムタイヤに交換。レース再開後、わずか数周で決着がつくスプリントバトルに備えた。もちろん、SCによって前後の間隔が縮まり、逆にスプリント勝負で逆転を狙うドライバーも何人かいたなか、46周目のリスタートから最終ラップまで集中力を全く切らすことなく逃げ切ったロズベルグ。見事、今季2勝目のチェッカーを受け、27日の木曜日から誰よりも欲しかった“優勝”という名の誕生日プレゼントを手に入れた。
【“人事を尽くして天命を待つ” 我慢と努力を積み重ねて、最後に掴み取った勝利】
ベッテルのリタイアで転がり込んできたロズベルグの勝利。“棚ボタだった”とか“ラッキーだった”という意見もあると思うが、それまでの40周をきっちり攻め続けた結果掴み取ることが出来た勝利だったことは間違いないだろう。
ギアボックストラブルが起きる直前まで、ずっと3秒前後の差で争っていた両者。もちろん、もっとリードを築いて余裕を作りたかったはずだが、ロズベルグがそれを必死に阻止。決して大きくはないが逃げるベッテルに対してプレッシャーを与え続けていたのだ。これで見た目のギャップ以上に余裕がなく、一瞬も気を抜かずに100%に近い状態でペースコントロールを強いられていたベッテル。実際に何が原因でギアボックスが壊れたのかは定かではないが、終盤になってもマシン細部を労る走りに切り替えられなかったことが、トラブルの引き金になった可能性も(わずか数%にも満たないが)あるかもしれない。
普通なら、無理にでもプッシュして自力で逆転優勝をしたいところ。しかし、それを行うと逆にミスをするリスクも高まり自滅の原因にもなってしまう。序盤から持っているパフォーマンスをきっちり出し、チャンスが来るまで我慢し続けたロズベルグに最後は軍配が上がる結果となった。
そして、彼らに余裕をなくさせたもう一つの要因が「メルセデスAMG勢が前半からレッドブル勢に引き離されないマシンになったこと」だろう。前回まではレースペースに課題があり、予選でポールポジションを奪っても決勝で後退していくシーンが多く見られた。しかし、今回はハミルトンのタイヤバーストでベッテルに先行を許したものの、前述にもあるように3秒以内の差をキープすることに成功。ロズベルグの粘り強い走りを影でサポート。最終的に勝利を呼び込むきっかけともなった。
この優勝によりトータル82ポイントに伸ばしたロズベルグ。首位ベッテルとの差は50ポイントと大きく開いているが、後半戦の展開次第では逆転も十分にありえる。特に次回は彼にとってもチームにとっても母国のドイツGP。着実に予選だけではなく決勝でもトップに立てるマシン・チームになり始めているだけに、ロズベルグの連勝という展開も十分に考えられる。
これから始まろうとする2013シーズン後半戦。その中で最も目が離せない、そしてライバルたちは一番意識しなければドライバーになりそうだ。
『記事:吉田 知弘』
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